ディラン・トマスの詩を翻訳する

(2017年9月22日(金曜日))

 

 

 

 去年の末ごろだったと思う。
 深夜に5分間アニメ『バーナード嬢曰く。』というアニメが放送されていた。

 このアニメはとある高校のあるクラスで読書家の神林しおり(非常によく本を読んでいる)と読書家気取りの町田さわ子(実はそんなに本を読んでいない)の二人の女子生徒が織り成す書評漫才といった風の作品なのであるが、最終回(12話)にちょいと気になる部分が登場した。

 新幹線に乗っている神林しおりがケータイで町田さわ子にアメリカのジョブナイル小説『カッシアの物語』を紹介する場面が出てくるのであるが、この部分で神林しおりはディラン・トマスの詩の一節を引用する。
 なんでもこの詩は『カッシアの物語』でも引用されているらしいのである。

 神林が引用したのは「怒れ!怒れ!死に絶えゆく光に抗して怒れ!!」という一節だけであるが、わたしは非常にこの一節が気になった。
 そこでわたしは『カッシアの物語』をアマゾンで買って読んでみることにした。
 確かにこのジョブナイル小説の中でこのディラン・トマスの詩の一節が引用されている。
 しかしこちらの引用も全編ではない。
 『カッシアの物語』で引用されたのは、またしてもこの詩の一節だけである。

 そして今年(2017年)の中盤ごろ、わたしは『インターステラー』というSF映画をビデオレンタルで借りて観た。
 わたしは度肝を抜かれた。
 このSF映画の中でも「怒れ!怒れ!死に絶えゆく光に抗して怒れ!!」というディラン・トマスの詩の一節を主人公が口ずさむシーンが登場したのだ。
 『インターステラー』は遠い未来、絶滅の危機に瀕した人類が新たな新天地を見つけるために外惑星に向かって旅立ってゆくという物語である。
 いわば『インターステラー』の世界では「滅びに抗して怒りあらがえ!!」という主旨で、ディラン・トマスの詩を引用しているのだ。

 さて『バーナード嬢曰く。』『カッシアの物語』『インターステラー』、この三本の作品で共通して引用される詩とはいったいなんなのか。これはもしかしたら欧米では非常に有名な詩であるのかもしれぬ。
 わたしは観念して、このディラン・トマスの詩の全編をインターネットで検索してみた。
 すると英語原文は出てくるが、日本語訳は部分的にしか訳されていない。
 わたしは一大奮起した。
 わたし「これはわたしが訳さないで誰が訳すんだ!?」

 というわけで、わたしはディラン・トマスの「そのここちよい夜のなかにおだやかに入りこんではいけない」という詩を翻訳してみることにした。
 しかし英語長文を訳すなんていう作業は大学受験のとき以来である。
 わからない単語、文法が頻出してわたしを散々悩ませてくれたわけであるが、英和辞典を引きながらなんとか「さま」になる翻訳が出来たと思っている。

 それでは百聞は一見に敷かず、まず英語原文全編を掲載してから、わたしの翻訳を掲載する。
 
 もはやこれは「超訳」を通りこして「魂訳(こんやく)」であるかも知れないが、なるべく「わかりやすい」翻訳をしてみたつもりなので、読者諸君ぜひ読んでくれたまへ。

 それではどうぞ!!↓



 

「Do Not Go Gentle Into That Good Night」

                          Dylan Thomas



Do not go gentle into that good night,
Old age should burn and rave at close of day;
Rage, rage against the dying of the light.

Though wise men at their end know dark is right,
Because their words have forked no lightning they
Do not go gentle into that good night.

Good men, the last wave by, crying how bright
Their frail deeds might have danced in a green bay,
Rage, rage against the dying of the light.

Wild men who caught and sang the sun in flight,
And learn, too late, they grieved it on its way,
Do not go gentle into that good night.

Grave men, near death, who see with blinding sight
Blind eyes could blaze like meteors and be gay,
Rage, rage against the dying of the light.

And you, my father, there on that sad height,
Curse, bless me now with your fierce tears, I pray.
Do not go gentle into that good night.
Rage, rage against the dying of the light.




 (日本語訳&黒猫館館長訳)


 「そのここちのよい夜の中におとなしく入りこんではいけない」



 老年はその人生の終わりにこそ燃えあがり怒り狂うべきだ。
 死に絶えゆく光に対して、怒れ!怒れ!



 賢者たちは死のきわにあるときにこそ、その闇が正しいことを知りながらも
 彼らの言葉が一度も閃光を切り裂くことがなかったからこそ
 彼らはここちのよい夜の中におとなしく入っていきやしない。

 善人たちよ。
 碧(みどり)なす浜辺で、わたしたちは此処で儚なげな踊りを踊ったのかも知れぬと
 泣き叫びながらも、最後に押し寄せてくる強大な波に打たれながら
 怒れ!怒れ!

 気の荒い人々よ。
 天(あま)翔る太陽をしっかりと捉えて、貴方がたはそれを謳いあげそして学ぶことだろう。
 太陽はあまりに遅いがゆえに貴方がたが深く悲しんだとしても
 あのここちのよい夜の中におとなしく入りこんではいけない。

 真面目な人たちよ。
 見えなくなりつつある目がかつては流星のようにぎらついて明るくありえたことを
 そのことをもう一度 もう一度思い出しながら、そして
 死に絶えゆく光に対して 怒れ!怒れ!



 そして貴方、わたしの父よ。
 その悲しみの絶頂で どうか今 貴方の激烈な涙でわたしを呪い祝福してください。
 あのここちのよい夜のなかにおとなしく入りこんではいけない。

 死に絶えゆく光に向かって怒れ!怒れ!怒れ!!

 

 

 さてデュラン・トマスは死の床にある父に捧げるようにこの詩を書き上げたという。
 わたしのこの日本語訳も現在(2017年)パーキンソン病で苦しむわたしの父に捧げることにしよう。

 それでは読者の諸君、貴方がたとえ孤立無援を強いられようと不条理なこの世界に対してあきらめないで、どうか怒り抗うことを忘れないでください。
 
 今こそ、「怒れ!!怒れ!!怒れ!!!」

 

 

(黒猫館&黒猫館館長)