全裸正座待機についての考察

 (2016年12月31日)

 

  1 ネット創生期の闇


 「全裸で正座して女王様の御登場をお待ち申し上げます。」

 こんな文言が一杯並んでいる。
 時はインターネット創生期の2001年ごろ、場所はわたしのHP「黒猫館」と相互リンクの関係にあるSMサイト「ミストレスカフェ」のツーショットチャット(見知らぬ男女が一対一で話すための場所)であった。

 わたしは「ははー。。。」と思った。
 M男たちはインターネットで自分を虐めてくれる女王様をさがしているのだ。
 このようなSMプレイのパートナー募集広告は80年代のSM雑誌の全盛期から読者投稿欄でさかんに目にしたが、最近(2001年ごろ)は雑誌の世界からネットの世界へ場所を転じているらしい。

 しかし一体「全裸で正座」とはどういうことか?
 わたしが「全裸正座待機」について知ったのもこの時期である。
 「全裸正座待機」という言葉にはなにかほのくらい情念のようなものが感じられる。
 わたしは「全裸正座」して女王の登場を待つM男たちの姿にインターネットの闇を見る思いがした。


 2 アニオタの世界での全裸正座について


 それから時が経ち、2006年ごろだったと思う。
 わたしは個人のSMサイトとは全く違う場所で「全裸正座」を目にすることになる。
 それは2ちゃんねるのアニメ板であった。

 「『ひぐらしのなく頃に』を観る時は全裸正座待機!!」

 この時期の人気アニメといえば『コードギアス 反逆のルルーシュ』『涼宮ハルヒの憂鬱』『ひぐらしのなく頃に』などであったが、そういうアニメを観るときは「全裸正座」して観るのが正しいというのが2ちゃんねらーの主張であるらしい。

 わたしは2ちゃんねらーの言うことだから、半分は冗談なんだろうと思いつつも、いつの間にかアニメの世界まで飛び火した「全裸正座待機」という文化に尋常ではない興味を示していた。

 「なぜ好きなアニメを観るときは全裸正座で観るのが正しいのか??」

 さて2ちゃんねる発祥のアニオタ版「全裸正座待機」は現在(2016年)ではmixi、ツイッターなどにさらに飛び火して、現在では「ニコニコ大百科」や「ピクシブ大百科」にも基本的な用語として登録されている。

 もちろん2006年頃から現代にかけての全裸正座待機には以前のような暗い情念が感じられない。
 なにかこうアニオタの面白おかしい突飛な行為と捉えられているらしい。
 しかし突飛な行為の皮を一枚めくれば、必ず暗くどろどろした情念が隠されている筈だ、わたしはそのように確信している。


 3 インターネット普及以前の全裸正座待機


 さてそれでは、2001年の個人SMサイトのツーショットチャットが「全裸正座待機」の発祥の地であるのか??と問えば実はそういうわけではない。

 話は1980年代までさかのぼる。

 この当時、もっとも隆盛を極めたSMクラブ「中野クイーン」でも「全裸正座待機」が存在していたらしい。
 中野クイーンに来た客は「サード」という奴隷専用の待合室に通される。
 この「サード」は人間一人が座れる程度の小さな空間で、ここで客は全裸で正座して、さらに目隠しに手枷&足枷を施されて女王が現れるのを待つ、といういわば奴隷専用の待合室なのであった。

 「サード」とは「ファースト(ミストレス)」、「セカンド(ゲスト)」、「サード(サーバント)」という「三番目の地位」の者が座る場所という意味であるらしい。

 「サード」に座る者に全裸正座待機が課せられるというのは、エロティックな身体表現である「裸体」を晒すこと、さらに正座することによる「謙譲(自分を低めることにより相手を高めること)」の意味があるのだろう。

 古来より「正座」とは卑しい身分の者や罪人に課せられた座り方であった。
 身分の高い人間の座り方は「あぐら」である。
 「正座」とはあくまで「膝を屈する」という意味で最大の恥辱を伴った座り方であったのだ。

 SMのメッカである「中野クイーン」において「全裸正座待機」が用いられたことはいわば当然のことであっただろう。



 4 全裸正座待機の未来


 現代の人気声優である「喜多村英梨」は自分のラジオ番組で、「自分が声を当てているアニメを観るときは全裸正座で観るように!!」という命令をアニオタたちに発したことがあるという。

 これは「アニメを観る」ことを極度に神聖な儀式と捉えた一例であると思う。
 いわばアニオタたちに全裸正座を強制させることでアニメを観るという行為に聖性を付与しようというのが喜多村英梨の目的であるように思われる。

 現代のアニオタたちの間では「特に好きなアニメ」あるいは「普通のアニメでも最終回だけ」は全裸正座で観る者が多いという。

 アニオタたちは好きなアニメキャラとエロティックな関係を持ちたいと思っているに違いない。しかしそれ以上にアニオタたちはアニメを観るという行為を、あたかも神を崇める人間のような神聖な行為に昇華したい思っているのだ。
 こういうアニオタたちの熱意を嗤ってはならない。

 ほら、リアルな世界でもいつかきっと全裸正座が登場する時代が来るとわたしは思っている。

 企業の不祥事が起きたときは社長が全裸正座で謝罪。
 閣僚の汚職が発覚したときは内閣総理大臣が全裸正座で状況を説明。
 浮気がばれたときは夫(あるいは妻)が全裸正座で放置プレイ。


 全裸正座待機がアニオタの世界からリア充(いわゆる普通の人間のこと)の世界に飛び火する時代はもうすぐそこまで来ているのだ。

 ねがわくば21世紀の日本のリアル社会に全裸正座待機が登場して、社会を暗くどろどろした情念で彩ることを。



 (了&合掌&南無阿弥陀仏)

 

(黒猫館&黒猫館館長)