極私的スペイン観光案内

(2014年4月24日)

 

 

  

T マドリッド篇

 「イタリアに行ってみたい。・・・」

 と思っている人は多いことだろう。
 イタリアは暖かい気候、美味しい料理、世界一多い世界遺産、陽気な気質のイタリア人、などなど長所を数えだしたらきりがない。
 日本人の新婚旅行はイタリアが一番多いというデータがある。
 そのデータが上記のような理由からだとすれば納得がいく。

 しかし新婚旅行に興味が薄いわたしのような人間はどうもイタリア行きは気がひけるのである。
 第一、イタリアは光学的な意味においても比喩的な意味においても明るすぎる。

 「もっと暗く!!」、これはアメリカの映画監督デヴィット・リンチの口癖であるが、わたしもそのように呟いてしまうのである。

 そういう人間にスペインはもってこいである。

 なにしろスペインは南欧の中でも「明るい」とは言い切れないなにかドロッとした暗さがある国である。血なまぐさい出来事が多かった歴史のせいであろうか。
 スペイン人はイタリア人と違ってなにかこう「内にこもっている」印象がある。
 情熱的で明るいのはイタリア人と同じであるが、その明るさはさそり座の明るさである。いつキレるかわからない危険性を併せ持つ。

 そういう意味で魅惑的でありながら、ちょっと危険な香りのするスペインに惹かれてしまった老若男女を対象にスペインの観光案内をやる。
 ただしタイトルに「極私的」とついているとおり、わたしの独断と偏見で見たスペイン観光である。
 
 それでは出発する。
 スペインのあまりの凄さにションベンちびらないように気を引き締めてください。



 ◆◇◆




 スペインといったら誰でもまず最初は首都マドリッドを思い出す。
 しかしマドリッドはスペイン第二の都市バルセロナより奥地にある。しかしやっぱり首都であるからまず最初に観光したいものだ。

 まずマドリッドといったら「闘牛」の聖地であるが、これは近年、動物愛護団体からの締め付けなどにより興行が難しい状態にある。
 故に観光ツアーで「闘牛」を見るのはまず不可能であり、個人旅行でも難しい状況にある。

 しかしあの血なまぐささ(牛を殺すまで戦い続ける)はスペインならではのものであると思う。
 スペイン人の残忍さを堪能したい人は個人旅行で「闘牛」を堪能してください。

 次にスペインというとフラメンコであるが、これはマドリッドのキャバレー(ヨーロッパのキャバレーは日本のキャバレーと違い風俗的な意味合いは少ない)で毎夜のように興行されている。
 大抵ツアーに組み込まれているが、もし組み込まれていなかった場合は夜にホテルを抜け出して観に行かれることをお勧めする。
 ただしマドリットの治安はヨーロッパで一番悪いと言われている。
 マドリッドにいる悪党はスリだけではない。
 強盗も出現しているという話を聞く。
 なにかあってもわたしは責任はとれない。旅行中の安全は自己責任。これは海外旅行に行く人間の常識である。
 
 「誰も守ってくれない。自分の身を守るのは自分自身である。」というわけだ。検討を祈る。

 次にマドリットといったら外せないのが「美術」の世界である。
 マドリッドのプラド美術館は必見である。フランスのルーブル美術館やイタリアのウフィツィ美術館と同じぐらいレベルが高い。
 なにしろあの「美術史上最も重要な作品」という呼び声が高いベラスケスの「女官たち」があるというのだから驚く。こういう名画はやっぱりナマで見たいものだ。コレ↓




 あとスペインの名画といったら、「もし売りに出したら世界一値段が高い」とウワサされるピカソの「ゲルニカ」があるがこれは実はプラド美術館にない。これがあるのはマドリッド市内のソフィア藝術センターである。

 ソフィア藝術センターは主に現代美術中心の品揃えである。
 できたらプラド美術館で中世〜近代の美術を堪能した後にじっくり鑑賞したい。
 ソフィア藝術センターは抽象絵画と現代彫刻の殿堂である。
 ぐにゃぐにゃしたわけのわからない抽象絵画を見て頭をひねってみるのも一興であろう。

 ちなみに「ゲルニカ」は写真撮影OK。
 至近距離に接近することも可能である。
 じっくり鑑賞した後は何枚でもこの世界的名画の写真を撮りまくってくれたまえ。コレ↓

 



 あとスペインといったら思い出すのが「世界三大名画」に数えられるエル・グレコの「聖オルガス伯の埋葬」であるがこれはマドリッド市内にはない。あるのはマドリッドからバスで2時間の場所にあるトレドの聖サント・トメ教会である。
 このサント・トメ教会は観光ツアーに組み込まれていないことが多い。

 どうしても見たい人は個人旅行でどうぞ。コレ↓




 マドリッド観光はこれで終わり、次回からアンダルシア地方へ向かう。
 



 

U アンダルシア地方篇

 

 

 

 赤江瀑『アンダルシア幻花蔡』(講談社)では何不自由ない美貌の日本人青年が突然ダンサーになるために、スペイン&アンダルシア地方を目指して旅立ってしまう。

 白い家、パティオ(中庭)、咲き乱れるひまわり、そして酷薄な程照りつける太陽。

 なぜ青年は旅立ったのか。
 なぜ青年はアンダルシア地方を目指したのか。

 わたしが学生時代にこの本を読んでから長いことそれがわからなかった。
 しかしこの歳になってようやくわかってきた気がする。
 美貌の日本人青年がアンダルシア地方に旅立ったのは、それは。。。



 ◆◇◇

 

 さて前回はスペインの首都マドリッドについて案内した。
 急ぎの旅行ならマドリッドからバルセロナを経由してそのまま帰国というツアーも多いことだろう。しかしそれではあまりにもったいない。
 スペインの真髄は最南端であるアンダルシア地方にあるといっても過言ではない。
 
 これからスペインに行こうと思っているみなさん、アンダルシア地方は見て損がない。いや損がないどころか見たら一生のおもいでになるだろう。アンダルシア地方とはそれほどインパクトが強い地域なのである。
 それではマドリッドから南へ向けて出発する。
 アンダルシア地方のあまりに強烈な太陽光線でぶっ倒れないように!


 ◆◇◆



 まず最初に言っておきたいことはマドリッドではある程度英語が通用した。
 しかしアンダルシア地方では英語がほとんど通用しない。
 それゆえにアンダルシア地方へ旅立つ者はペラペラと言わないまでもある程度(日常会話程度)のスペイン語に精通しておく必要がある。
 これは個人旅行でも観光ツアーでも同じである。
 観光ツアーの自由時間を有効に使いたいならば、紙に書いても良いので簡単なスペイン語を使えるようにしておいてください。

 それではまずアンダルシア地方について概説する。
 下の地図を見てくれたまえ。

 



 アンダルシア地方はスペインの最南端に位置する。
 この地方で重要な都市はまず第一にコルトバとグラナダである。
 わたしとしてはこの2つの都市にあえてミハスを付け加えたい。

 コルトバ、グラナダ、そしてミハス、この三都市を重点的に周ることが、アンダルシア地方観光の要(かなめ)となる。
 観光ツアーなら専用のバスが出ているが、個人旅行では電車を利用しなくてはならない。

 それではまずコルトバから案内する。
 コルトバは古くは「コルトバ回教国」の首都だったこともあり、非常にイスラム色の強い都市である。しかしその後のレコンキスタ運動によりキリスト教徒に奪回された後は再びヨーロッパ色が強くなった。
 そのためコルトバではイスラム文化とヨーロッパ文化の異様な折衷ともいうべき独特の文化様式を見ることができる。
 
 パティオ(中庭)という文化もそのひとつであろう。
 コルトバはアンダルシア地方でもとりわけパティオが発達した地域である。
 このパティオは日本の庭と違って単なる鑑賞物ではない。市民たちはここで食事をしここで遊興に耽り、ここでシエスタ(昼寝)をする。(スペイン では一般的に昼の1時頃から4時ごろまで昼寝(シエスタ)をする。日本では考えられないことだが、それがスペインの常識なのである。)

 パティオを見ることでそういったスペイン人の独特の生活様式を感じ取ってほしい。コレ↓

 



 次にコルトバから東へ少し行くとそこはグラナダである。
 グラナダでは「アレハンブラ宮殿」が観光の要となる。
 このアレハンブラ宮殿もまたイスラム様式とキリスト教様式が奇妙なカタチで折衷された世界的に見ても独特なものである。
 広大なアレハンブラ宮殿を見ながらじっくり異国情緒に浸ってください。コレ↓
 (この写真は「アラヤネスの中庭」。長さ34メートル幅7.1メートルの池を持つ中庭でありアルハンブラ宮殿で最もよく知られるひとつ。アラヤネスとは両脇にある刈り込まれた生垣の植物の名前で、中庭の大理石の白と生垣の緑はコントラストが計算されている。)

  



 その次はグラナダから南西のミハスへ向かう。
 ミハスは大抵の観光ツアーに組み込まれていないので、行きたい人は個人旅行でしか行けない場所である。しかしこの街は非常に個性的な特徴のある街であるからぜひ行ってみましょう。

 このミハスの特徴はなんと街全体が白く塗られているというのだから驚く。
 湿気が一粒もないような乾燥した真っ青な空に真っ白く塗られた建物の群れ、そしてシエスタの最中なので静寂に包まれた街全体、そういうまるで天上の世界にいるような不思議な感覚をミハスではじっくりと味わってください。コレ↓

 



 
 最後にアンダルシア地方といったらこれだけは欠かせないものに「ひまわり」がある。
 このひまわりの群生地帯へはバスでしか行けない。
 見られる期間も5月末から6月と短期間である。
 しかしこの「ひまわりの群生」は凄い。一見の価値は多いにある。

 大抵観光ツアーには組み込まれていないので、見たい人は個人旅行でどうぞ。コレ↓

 



 最後にアンダルシア地方はもはや熱帯と言っても良い暑さの気候の場所である。
 できるだけ夏は避けたほうが良い。熱中症になる可能性があるからだ。
 アンダルシア地方を見るにはやはり「ひまわり」の開花時期である五月末が好ましい。
 
 それではみなさん、観光ツアーで行くにしても個人旅行で行くにしてもアンダルシア地方は非常に魅力のある地域である。大いに異国情緒に触れて楽しんでください。

 それでは次回はいよいよスペイン第二の都市であるバルセロナに向かう。

 乞う、ご期待。

 

V バルセロナ篇

  

 マドリッドから新幹線に乗って、アンダルシア地方へ、そしてまた更なる新たな旅立ちのときが来たようである。

 通常の観光ツアーではマドリッドから直接バルセロナへ向かうのが普通である。
 この観光案内においてもアンダルシア地方という寄り道はあったもののいよいよ空路でバルセロナに向かう。

 旅の終着駅&バルセロナ、そこに待つものとは?。。。


 ◆◇◆


 バルセロナは正確にはカタルーニャ地方バルセロナ県バルセロナ市という。
 このバルセロナ市はマドリッドに続くスペイン第二の大都市である。日本における東京と大阪の関係を考えてみるとわかりやすい。
 大都市であるから当然治安も良くない。
 マドリッドと同レベル、あるいはそれ以上の治安の悪さを誇る大都市である。

 スペインに限らずヨーロッパならどこでもそうだが「スリ」には十分に注意していただきたい。
 もちろん日本人の考える甘っちょろいスリではない。
 ヨーロッパのスリはスリのプロである。

 人気漫画『北斗の拳』に人間の皮を残して内臓を抜き取るという秘拳が登場したが、それと同じようなことをやってのけるスリが現れる。
 なにしろカバンのファスナーを開けずに中身だけ抜き取ってゆくというのだから驚く。
 物理学的にこんなことは不可能だがヨーロッパのスリはこんな手品のようなことを本当にやってしまうらしい。
 故にファスナーを押さえていれば大丈夫、という日本人の常識は通用しないのだ。
 なんともあまりにも恐ろしいスリのプロの仕事ではないか?
 バルセロナを歩くときは不審な人物が近づいてきたら、即ダッシュで逃走するかタクシーでの移動をお勧めする。(大げさではありません。マジです。)


 ◆◇◆



 さてバルセロナを代表するものといったらまず建築家のガウディである。
 昨今ではガウディをローマ・カトリック教会の「聖人」に列しようという動きもあるらしい。
 つまりガウディとはそれほどの「大物」なのである。
 日本で言えば岡本太郎と同等かそれ以上と考えてもらいたい。

 そんなガウディの建築物であるサクラダファミリア&グエル公園&ミラ邸の三箇所を見学することがバルセロナ観光の主体になる。
 幸いなことにこの三箇所は隣接しているので、非常に危険なことで有名な「スペインの地下鉄」に乗らないで済む。
 観光用の専用バスが出ているのでそれに乗って観光しましょう。

 まず出発点であるサクラダファミリア(聖家族贖罪教会)であるがこれは凄い。
 日本でいえば東京都庁と同じかそれ以上の巨大さを誇るというのだから尋常ではない。
 コレ↓

 



 このサクラダファミリアはあまりに巨大すぎて「永遠に完成しない」(現在も未完成である。)と言われてきた建造物であるが、昨今ローマ教皇がこの教会を礼拝したのでそれに合わせて急激に作業が進んだらしい。
 そのせいか「2026年」には完成すると言われている。
 スペイン人の言うことは法螺やデマが多いので信用できないが、どうやらわたしたちの存命中に完成しそうである。
 おおいに期待しましょう。

 このサクラダファミリアは内部に入ってエレベーターで天辺付近まで昇ることも可能である。
 しかし通常3〜4時間待ちというのだから時間のない人は諦めましょう。


 次にグエル公園に向かう。
 この公園内にはガウディの私邸も存在しているという広大な人工庭園である。
 サクラダファミリアが縦にデカイとすればグエル公園は横にデカイと言える。
 疲れてヘトヘトになるまで公園内を歩き回ってください。
 
 グエル公園に行かれた際にはほぼ中央に位置する「カメレオン像」で写真を撮ることもわすれないように。コレ↓なんともカワイイじゃありませんか。みなさん。

 



 最後に郊外からもう一度バルセロナ市街へ戻って「ミラ邸」を見る。
 この「ミラ邸」は普通のマンションサイズで実際に中に住んでいる人もいるという。
 こんなマンションに住めたらなんとも人生が楽しいだろうな、と思える建造物である。
 ちなみにミラ邸は柱からガラスへ至るまですべて曲線で構成されているというのだから驚く。
 まさに「普通サイズの驚愕物件」であるミラ邸をおおいに堪能してください。

 コレ↓

 



 さてバルセロナはガウディの街であるがもちろん他の有名芸術家の出身地でもある。
 バルセロナ郊外にある「バルセロナ現代美術館」ではミロ、タピエスなどの奇想天外な抽象絵画を楽しんでください。コレ↓(ミロの作品)



 
 ◆◇◆
 
 【旅の終わりに】

 これにて全3回の短期連載をもって「極私的スペイン観光案内」を完結する。
 しかしスペインはまだまだ奥深い国である。
 マドリッド&アンダルシア地方&バルセロナの他にも見所は沢山ある。
 そんな「貴方独自のスペイン像」を貴方自身で見つけ出してください。

 それでは日本のスペイン的歌謡曲の代表格ともいえる中森明菜の「ミ・アモーレ(わたしの愛しい人)」をBGMにしながら、、、、

 「良い旅を!!」




(完結・合掌・南無阿弥陀仏)

 

 

黒猫館&黒猫館館長