若き女王様への手紙

(講演日=2013年5月6日)

  

 

 

 

  1 A子氏の憂鬱。

 2013年春4月、わたしは東京&お茶の水で学生時代の友人A子氏と喫茶店でお茶していた。
 桜が散ってしまったとはいえ、喫茶店の窓からは春特有の柔らかな日差しが降り注いでいた。

 ちなみにA子氏は40代でいまだに独身、ディスカウントショップでアルバイトして生計を立てているという。

 ひととおりの雑談をし終わった後でA子氏がウンザリしたような顔でこう言った。
 「あ〜、、、なんかヤな生活!アタシがもう少し若かったら女王様になるのにな〜!」

 どうやらA子氏は現状の生活に不満であり、それなりの資質が備わっていたらSMの女王様に転職したいらしい。
 しかしここでわたしはA子氏にちょっと待てを言いたい。
 「女王様」という仕事はそんなに簡単に務まるのであろうか?



 2 セーフティネットとしての「風俗」。

 さて話はやや逸れるが、なぜ女性より男性のほうが圧倒的にホームレスになりやすいのであろうか。この問題には様々な説が混在しており、はっきりとした結論が出ていないのであるがこういう説がわたしとしては非常に面白いと思った。

 「女性には『風俗』という最後の切り札がある。」

 なるほど〜。と唸らざるを得ない。
 女性には「最後の切り札」がある。それは「自分のカラダ」である。「自分のカラダ」を売ればホームレスへの転落はぎりぎりに避けられるかもしれない。
 しかし男性にはそういった「最後の切り札」がない。
 だからホームレスやネットカフェ難民には圧倒的に男性が多いのであるという。

 これは非常に説得力がある説である。

 キャバ嬢、ヘルス嬢、ソープ嬢、そしてSM嬢、世間には数限りの無い性風俗業が遍在している。大抵の女性なら努力さえ惜しまなければこのどれかの業種に引っかかることができるだろう。

 そして最近特に人気なのがSM嬢、それもS役である「女王様」なのだそうである。
 A子氏が「女王様」に憧れるのも無理のない話である。
 さてそれでは本当に「女王様」とは憧れるべき職業なのであろうか?



 3 「女王様」というお仕事。
 
 「女王様」に憧れる女性の基本的な心理はこのようなものであるらしい。
 
 1>カッコいい。
 2>脱がなくても良い。
 3>性サービスがない。

 さて1の「カッコいい」>確かに外面上はこうであるだろう。華麗なボンデージに身を包み颯爽と鞭を振るう女王様の姿は現在のサブカルチャー・ シーンでは欠かせないものになっているといっても過言ではない。しかしそれはあくまで「外見上の」話である。内面まで掘り下げて女王様はカッコいいといえ るのであろうか?
 
 2の「脱がなくて済む」>これは本当の話である。SMクラブでは基本的に女王様は脱がない。しかし水着やランジェリー姿になる程度のことは求められる。ボンデージだけが女王様の「制服」ではないのだ。

 3の「性サービスがない。」>これは嘘である。女王様といえど性風俗業である。
 客であるマゾヒスト男性に対して「手による抜き」のサービスが行われるのは常識であると言っても良い。この程度のことが嫌な人は女王様など止めたほうが良いだろう。

 

 4 「女王様」の難しさ。

 「性サービスが最小限に抑えられる風俗」>正確に言えば女王様業とはそのようなものである。しかし性サービスが少ないからこそ難しいのだ、ここをわたしは強調したい。
 
 鞭・ろうそく・縛り・格闘術などの習得は女王様なら必須である。
 大抵の新人女王様は先輩の女王様からこれらの極めて高度なテクニックを授けられる。
 この段階でヘタっている女性には女王様など無理である。
 しかし本当に難しいのはこれらのテクニックの先にある何かだ。

 SMはファンタジーの世界である。
 男も女もプレイ中は夢の中の世界にいる。
 つまり場末のラブホテルの汚い部屋を、中世の古城の地下牢へ塗り変えるような説得力&想像力&表現力が求められる。
 これは簡単なことではない上に、天性の素質が必要とされる。
 要するに女王様とは簡単な職業ではないのだ。
 それどころかすべての風俗業の中で最も難しいのは女王様であると推測できる。



 5 「風俗」に身を染めるということ。

 最後に付け加えるならば、SM業界といえど性風俗業であることは先述した。
 性風俗業であるということはヤクザを筆頭とする「人生の裏街道」へ足を踏み入れることを意味する。人生の裏街道ということはもうカタギの世界ではない。つまりそこはもうカタギの世界のように「理屈」が通る世界ではないということだ。

 だからわたしは女性が風俗の仕事をすることを決して勧めはしない。
 一度でも風俗に手を染めてしまった女性は極端に自己評価が低くなるというデータも存在している。

 しかし「そんなことは百も承知!アタシは女王様で喰ってやるんだ!」という威勢の良い女性がいたら、大いに結構、わたしはもう止めはしない。これから女王様として存分に暴れてほしいものである。
 
 さてたった一度しかない人生。
 どう生きるかは貴方しだいである。
 決して悔いのない生き方をしてくれ!!
 
 わたしが最後に強調したいことはそれだけである。



 (了&合掌)

 

 

(影姫&黒猫館&黒猫館館長)