格闘技のススメ

(講演日=2013年12月15日)

 

 「ケンカが強くなりたい。」

 大学生時代のわたしはつくづくそのように思った。
 中学生時代のわたしはいじめられっ子であった。高校生時代はいじめられはしなかったが、舐められていた。

 学生時代のわたしはいじめられるのも舐められるのも嫌だと思ったのである。
 するとどうすればいいか?
 答は簡単である。ケンカが強くなればいいのである。
 腕力で相手をねじ伏せる。これは強い。揉め事の決定的な解決方法である。

 というわけで。
 わたしは世田谷区下北沢にあるボクシングジムに入門した。
 汗の臭い。歯のない男たち(打ち合いで全部折れてしまったのである。)、ブランと哀しげにぶらさがっているサンドバック。
 マンガ『あしたのジョー』を引き合いに出すまでもなく、ボクシングは孤独で哀しいスポーツであるとわたしは直観した。

 ボクシングジムに入門したわたしは来る日も来る日もミット打ち(相手のグローブを叩く練習)をやらされた。しかしあんまり上手くならない。
 わたしは運動神経が鈍い。すばやい動きを要求されるボクシングには向いていなかったのであろう。
 そんなとき、ジムの仲間から誘われた。
 「君はボクシングより柔術のほうが合っている。柔術の道場においで。」

 なんでもその仲間はボクシングとブラジリアン柔術を並行してやっているそうである。
 わたしのようなタイプの人間は「バシッ!」とやるボクシングより「ぬめッ」としたブラジリアン柔術のほうが合っている、そのように言われた。

 ボクシングに限界を感じていたわたしはさっそくブラジリアン柔術の道場を見学した。
 
 すると。雰囲気が明るい。ボクシングとブラジリアン柔術の性質の違いであろうか。とにかく和気藹藹として練習に励んでいる男たち!本当に楽しそうである。

 さっそくわたしはその日のうちにブラジリアン柔術に入門した。

 ここで「ブラジリアン柔術」とは何か。知らない人も多かろう。
 簡単に説明する。
 
 ブラジルに移民した日本人柔道家・前田光世が自ら柔道の技術をブラジル人であるエリオ・グレイシーやカーロス・グレイシーなどに伝え、それらがブラジルで改良されてできたものである。ブラジルではリオデジャネイロを中心に長年にわたって盛んに行われている。

 つまり柔術は試合用に形式化された現代の柔道より実戦的な性質を持つ。
 そしてブラジリアン柔術は別名「力を持たない者のための格闘技」と呼ばれ、最も少ない力で相手の暴力を制することを目的とする。
 つまり「攻撃」より「護身」の意味合いがブラジリアン柔術には強い。しかしひとたび攻撃に移れば相手の右腕ぐらいは簡単にへし折るほどの攻撃力を持つ。

 わたしは来る日も来る日もブラジリアン柔術の道場に通った。取っ組み合いをするためである。
 この道場に来ている連中は先述したとおり、ボクシングジムにいる表情が暗く寡黙なボクサーたちとは全く違っていた。
 とにかく明るく初心者には優しく親切に教えてくれる。
 この道場でわたしは腕ひしぎなどの基本的な技を習得した。

 するとどうなったか。
 「自信」がついたのである。多少舐められてもそんなにうろたえなくなった。ネットで攻撃されても、「最後は腕力で勝てる」という自信があるから2ちゃんねらーやネトウヨの脅しにもわたしは屈しない。

 わたしは人間対人間の揉め事を解決するのは最終的に腕力であると思っている。
 キリストいわく「右の頬を打たれたら、左の頬を差し出せ」・・・トンでもない!!
 わたしはイエス・キリストという人物は「ケンカ」を知らなかった人間なのだと思う。一発殴らせたら、相手は調子に乗って次は三発殴ってくるだろう。それが人間というものだ。

 いじめられたら腕ひしぎで相手をしめつけてやれ。
 路上で絡まれたら、寝技に持ち込んで少々痛い目に合わせてやれ。

 要するに「やられたらやりかえせ。」これがわたしのモットーである。

 しかし絶対に相手にケガをさせてはならない。ケガをさせたら今度は自分が警察に追われる立場となる。ヘタすれば慰謝料をふんだくられるだろう。ケガをさせる一歩手前で止めるのだ。

 それと「最初に手を出してはならない。」このモットーはブラジルアン柔術だけではなくすべての格闘技に通ずる。あくまで「最初に手を出してきた 相手をねじふせる」これが「ルール」というものである。こちらが最初に手をだしたら、自分のほうがならず者&チンピラに堕ちてしまうだろう。



 最後にかつてミュージシャンの大槻ケンヂは「女にもてたかったらバンドをやれ!」とアジった。わたしは大槻に対抗してこのように言おう「女にもてたかったら格闘技をやれ!」。

 男としての野性味、強さ、自信、そのようなものは格闘技に習熟して「ケンカ」が強くなるところから生まれてくる。ケンカが強い男が女にもてるのはあたりまえだ。「いざとなったら守ってもらえる」という安心感、これが男に対する女の側の愛情に繋がってゆく。

 ケンカになったら「格闘技」という洗練された格闘テクニックを使ってなるべく合理的に勝つ。
 これはいじめのるつぼである現代社会においていじめられない唯一の方法である。
 さらにはものごとを為すのに必要不可欠な「自信」という高貴な精神を形成するのに非常に有効な方法である。

 それでは最後に一言。

 「なにかで悩んでいる貴方。解決したかったら格闘技をやることだ。きっと解決の糸口が掴めるだろう。」

 健闘を祈る。

 

(黒猫館&黒猫館館長)