らき☆すた聖地巡礼

 

(2011年5月1日)

 

 

 

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 2011年2月27日(日曜日)、晴天。


 

(↑JR上野駅構内・東北本線乗り場)



 京浜東北線からJR上野駅へ降り立ったわたしは「東北本線」への乗り場を探してよたよたと歩いていた。
 この日の前夜は川崎のネットカフェで不自然な姿勢で寝たために首回りが痛いのだ。しかしそれでもわたしは行かなくてはならない。

 「聖地」を目指して。

 さて「聖地」というと京都の比叡山であるとか和歌山県の熊野であるとか、そういう場所を連想する人が多いと思う。無論それは事実であり間違いではない。

 しかし昨今の若者文化の文脈で「聖地」という場合、それは漫画・アニメなどの舞台になった場所を指す。

 わたしはかってイタリアのヴェネチアを訪れたことがある。ヴェネチアに居た時は「ああ〜ここがARIAの舞台になった場所なんだな〜。。。」程度の認識で「聖地巡礼」しているという意識はほとんど無かった。

 ゆえにわたしはその日、きっちりと「聖地巡礼」しようと心に決めていた。場所は埼玉県鷲宮神社。往年の人気アニメ「らき☆すた」の舞台となった場所である。

 アニメ「らき☆すた」のOPで泉こなたたちが奇妙なダンスを踊っていた場所を思い出してくれたまえ。あの場所がまさに「埼玉県鷲宮神社」であるのだ。

 さて「埼玉なら大宮から行けばいーじゃん」という方が多いと思う。しかし鷲宮神社は埼玉県でもかなり内陸よりなので、大宮から入ったのではとても辿りつけないのだ。それゆえ東北本線でまず上野から「久喜」という駅を目指し、そこからさらに東武伊勢崎線に乗り換えて「鷲宮駅」を目指す。

 なんだか「一日鉄っちゃん」になったようでわたしの心はわくわくしていた。

 やがて「東北本線」ホームを発見、電車に乗り込む。


 なんだか妙にガランとしている。ガラガラに空いた客席に腰を下ろすとわたしはゆっくりと目を瞑った。
 無論、「らき☆すた」の名場面を思い出すためである。

 「こなちゃん、どんだけ〜♪」つかさがおどけている。

 なぜかこのシーンがわたしの脳裏に一瞬写った瞬間、東北本線が出発した。今まさにわたしにとっての「らき☆すた聖地巡礼」の旅が始まったのだ。

 

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  東北本線がごとごとと走り出す。
 
 わたしはペットボトルをごくり・・・と飲み込んだ。

 行けども行けども田園風景。
 本当にぽつりぽつりと民家が見える以外は視野一面のまっさらな田んぼ。


 

(↑東北本線内部から埼玉県の田園地帯を見る)  


 「平和だな〜。・・・」わたしはしみじみと思った。
 「自然も多いし、都会にも近い・・・埼玉県ってのはパラダイスだな。」

 そんなことをわたしが考えている間にも列車は各駅停車でゆっくりと北上してゆく。

 上野から久喜まで約一時間、わたしは前夜の睡眠不足を補うため、ゆっくりと目を瞑った。

 意識が遠ざかってゆく・・・もう夢の中なのであろうか・・・?こなたが田んぼの上で奇妙なダンスを踊っているな・・・と思ったら、ハッ!と目が覚めた。

 車内アナウンス「久喜〜・・・久喜〜・・・」

 なんともう一時間経っていたのだ。
 睡魔というものは恐ろしい。わたしは電車から飛び降りた。

 眠い目を擦りながら、東武伊勢崎線を探す。
 切符を買い換えて東武伊勢崎線ホームへ降りた。しかし全然人がいない。

 「おかしいな〜。。。」と思いながら時刻表を見たら次の電車はなんと30分後!田舎だから電車はめったにこないのだ。わたしはまたもベンチにどすんと身を沈めた。

 それにしても素晴らしい田園風景は相変わらずである。


 2月にして早春の雰囲気を感じさせる光景にわたしはいつしか「絶対可憐チルドレン」のED主題歌「早春賦」を口ずさんでいた。

 「♪前を向いて、心決めて、見上げる空、未来を超えるわたしのツバサで〜♪ 貴方だけが大本命!絶対LOVE、宣言した、、、きらきらしてた季節が過ぎてく〜♪」

 本来ならば「らき☆すた」の主題歌を口ずさまねばならない場面であろう。しかしこの時のわたしには「早春賦」が目の前の新緑の風景に合っているように感じられたのだ。

 やがて30分経って電車が着た。案の定車内はガラガラ、わたしの他には乗客はひとりもいない。
 
 どこまで行っても田んぼ、田んぼ・・・
 と思ったら、車内アナウンス「鷲宮〜鷲宮〜・・・」

 

(↑鷲宮駅構内)

 東武伊勢崎線は速い。
 感傷に浸っている間もなく、あッ!という間に鷲宮駅に着いてしまった。
 わたしは電車から降りて改札口を目指す。改札口から出たわたしはアアッ!と圧倒された。

 これは凄い。
 らき☆すた御輿である。

 

(↑らき☆すた御輿)


 こなた、かがみ、つかさ、みゆきさんの主要キャラの他にもゆーちゃん、岩崎みなみ、そうじろう、かなた、みさお、ひより、黒井先生、パトリシア・マーチンなどほぼオールキャラクターが描かれている。
 その上でかい!
 
 このらき☆すた御輿は毎年鷲宮神社の「土師祭」という夏祭りで担がれるのだという。さよう、この御輿にはヲタクたちの血と汗とナミダが染み込んでいるのだ。
 これからもヲタクたちに永遠に担がれ続けてくれ!らき☆すた御輿よ!

 そう御輿に告げたわたしはついに鷲宮駅前に降り立った!



 

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 ついにわたしは鷲宮駅に降り立った!
 と思ったら、目の前に駄菓子屋がある。接近してよく見てみるとアニメ「らき☆すた」関係のものを中心に扱っている駄菓子屋らしい。

 

(↑鷲宮駅前の駄菓子屋) 


 わたしはこの店に入ろうと思った。
 しかし中はガランとして誰もいない。なにやら不穏なものを直感的に感じたわたしはこの駄菓子屋から離れた。

 さて。
 どうやって鷲宮神社へ行こうか。しかし全然わからない。
 ・・・タクシーで行こう!そう決意したわたしは駅前に一台だけ停まっているタクシーの窓をコツコツと叩いた。

 「グワン!」とタクシーのドアが開く。
 わたしはドアの外から運チャンに尋ねた。「あの〜・・・鷲宮神社まで行ってほしいんですけど。・・・」
 運チャン「ああ〜すぐそこ。タクシーで行く必要なし。」
 タクシーの運チャンはこっちも向かずに、また「グワン!」とドアを閉めてしまった。

 しかたがない。歩こう。・・・
 というわけでわたしはトコトコ歩き出した。

 

 回りは典型的な田舎の住宅街らしい雰囲気である。
 なんだか昭和50年代的ノスタルジーに溢れている感じもある。

 「ああ〜小学校の頃、こういう路地でよく遊んだな〜・・・」と思いつつわたしはトコトコ歩き続ける。


 

(↑鷲宮駅近くの路地)
  


 しかしひとっこひとり見えない。
 本当にこっちの方向で良いのだろうか・・・?と思った瞬間、ある家のドアの所にチョコンと小猿のように爺さんが座っている。

 わたしは爺さんに話しかけてみた。
 わたし「あの〜・・・鷲宮神社はどっちですか?」
 爺さん「ああ〜そこまっすぐ行って左。」

 わたしは爺さんに礼をするとなおも歩き続ける。さらに歩いて十字路を左に曲がる。
 するとそこにはバイクが一杯置いてあった。
 「はは〜・・・これはヲタクたちのバイクだな。」わたしはそう思った。理由はわからないが、ヲタクにはバイク乗りが多いらしいことをわたしは知っている。かくいうわたしも秋田市にいる時はバイク乗りである。

 バイクの行列を通り越して垣根の中にひょいと入ったら、鳥居が見えた。

 かくしてわたしはヲタクたちの聖地「鷲宮神社」に到達したのだ!
 
 
  

(↑鷲宮神社構内)

 

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 わたしはついに鷲宮神社に立った!!
 空気が澄んでいるのがありありと感じられる。まるでここにいるだけで心身がリフレッシュされるようである。

 ・・・とわたしはキョロキョロと周りを見回してみた。
 あんまり人がいない。ところどころにヲタクっぽい人物たちがたっているだけである。
 あとはタコ焼きやらタイ焼き屋やらがポツンポツンと建っている。

 「まあ、いいか。」わたしは神社の境内に向かってトコトコ歩きだした。まだ腹は減ってないのでタコ焼きは食べないことにした。


 鷲宮神社は意外と大きな神社である。
 境内までかなり歩かねばならない。途中にやたらデカイトイレがあった。
 わたしはこの機会であるからと、トイレで用を足すと再び歩きだした。
 「非常にキレイなトイレであったな。」わたしはトイレがキレイだと機嫌が良くなる人物なのである。

 ふとわたしはあるものに目がいった。絵馬である。しかも鷲宮名物ヲタク絵馬である。
 「うあ〜・・・」とわたしは呆れた。
 こなたやかがみが描かれているのは良いとして、なぜか「けいおん!!」の唯だとか、ボーカロイドの初音ミクだとか、はては「侵略!イカ娘」のイカ娘だのが描かれた絵馬が所狭しとぶら下げてある。

 

(↑ヲタク絵馬)


 「ヲタクたちよ・・・これは少々やりすぎだぞ・・・」わたしはしみじみと思った。いくら鷲宮神社が「ヲタクの聖地」と崇められたとしても「らき☆すた」と全く関係のないキャラを絵馬に描くとはいかがなものか。

 ヲタクたちの無軌道ぶりに呆れているとようやく拝殿に到着した。


 

 

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 わたしは大の神社ファンである。

 理由は巫女さんがいるから、・・・という理由もあるが本当の理由はもっと本質的だ。
 神社というものは、らき☆すたのかがみがバイトしていようがいまいが「聖地」なのである。「聖地」であるからどこにでも建立できるという建物ではない。

 神社は風水的に計算して重要と思われる場所に建立される。
 それゆえ、神社を訪れる人間は神社にいるだけで、邪気を払われ、良質なエネルギーを得ることができる。

 読者諸氏も神社に行った時のことを思い出してみ給え。
 なんとなく空気が澄んでいるように感じられただろう。あれは実は「なんとなく」ではない。神社が持つ清浄化作用で本当に空気が澄んでいるのだ。

 ゆえに疲れている人、病気の人、神経を病んでいる人には神社に行くことをお勧めする。きっと行くだけで善い効果が得られるであろう。



    ※              ※



 さてようやくわたしは鷲宮神社の拝殿に到着した。

 

(↑鷲宮神社拝殿) 


 ここで鈴を鳴らして願をかけるのだ。ひとりのヲタクが拝殿を拝んでいる。なんだかやたらに長い。
 そのヲタクがようやく拝み終わったらわたしの番である。
 わたしの家は元禄時代から神主の家系であるからだいたいの作法はわかっている。
 拝殿では「二拝二拍手一拝」しなくてはならない。これが正確な作法である。
 さて「二拝二拍手」したわたしは厳かに掌を合わせた。
 ここで非常に色々なことを願かける人がいる。これは実はあまり善いことではない。願かける時は「ただひとつのこと」をかけたほうが効果がある。

 わたしは「世界人類がみんなまとめてシアワセでありますように。」と願かけることにしている。
 「世界人類」であるから当然わたしの所にもシアワセは巡ってくるだろう。極めて簡単な論理だ。

 さてわたしは最後に「一拝」して拝殿から離れる。
 後ろには次のヲタクが待っているから、ゆっくりはやっていられない。わたしは拝殿から離れた。


 さてかがみとつかさがアルバイトしているという鷲宮神社参拝はこれで終了である。これで神社から帰るのはなんだかもったいないので、わたしはベンチに座ってかがみとつかさのことを想像してみた。

 「こなちゃんのくせに〜!!」とまたつかさがわたしの脳内に出現した。なぜかかがみは出てこない。これは恐らくわたしが「つかさファン」でかがみにはあまり興味がないからであろう。

 おどけているつかさが鷲宮神社の拝殿の前で踊っているようだ・・・そんなことを考えながらわたしは鷲宮神社の鳥居をくぐって外に出た。



 

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 拝殿で参拝を済ませたわたしは鷲宮神社から出ることにした。
 
 秋田行き新幹線が東京駅を出発するのがPM5時、現在は1時30分である。少なくてもPM4時には東京駅に戻っていなくてはならないからそうゆっくりもしていられないのだ。

 それになにより昼食がまだである。
 早く食べなくては・・・と思い、鷲宮神社の鳥居をくぐると左手に古民家風の店がある。なんだ、この店は?と思い、店先を見るとこれは凄い。
 なにが凄いってメニューが凄い。これ↓

 

(↑大西茶屋メニュー)



 「こなたぬき」
 「柊姉妹の双子天ぷら蕎麦」
 「黒井先生の関西風ニシン蕎麦」
 「つかさの野菜もっさい」などなど・・・

 「ここに入ろうッ!!」・・・わたしは咄嗟にこの店に入ってしまった。単純と言われようがなんと言われようが、わたしはこういうお遊びに弱いのだ。

 店の中に入るとお座敷がある。
 わたしはお座敷に腰を下ろした。わたしの後ろでは3人のヲタクが「仮面ライダー電王」の話をしている。
 「ええい!らき☆すたの話をしろ!!らき☆すたのッ!!!」と思っているとお姉さんが注文を聞きに来た。

 わたしは天ぷらを食べたい気分だったので、即座に「柊姉妹の双子天ぷら蕎麦」を注文した。本当は医師に「血液中の中性脂肪の多さ」から天ぷらを止められているわたしである。しかし聖地巡礼の時ぐらい天ぷらを食べてもイイぢゃないか!!☆

 ・・・などと考えているとお座敷の隅に10冊ぐらいのノートが置いてある。なんだ?このノートは・・・?と一冊抜いてきて見てみるとこれは凄い。ヲタクたちの落書帖である。

 

(↑ヲタクたちの落書き帖) 


 らき☆すたの落書が多いがなぜかハルヒやらマクロスFの落書も目立つ。わたしが熱心にヲタクたちの落書を見ているとやがて天ぷら蕎麦が運ばれてきた。


 

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 大西茶屋のお姉さんが「柊姉妹の双子天ぷら蕎麦」を運んできた。
 なるほど。確かに天ぷらがふたつ蕎麦の上に乗っている。

 

(↑柊姉妹の双子天ぷら蕎麦)


 「ふふ。喰ってやる!!喰ってやるぞお〜!!かがみとつかさ〜ァ!!」などと秋田のナマハゲのようなことを言いながら蕎麦をすする。

 ・・・旨い。
 そば粉のしこしこした歯ざわりがなんとも善い。次に汁をすすってみる。・・・これも旨い。醤油を絶妙にアレンジした汁である。
 さらに天ぷらを食べる。これも善い。海老のこりこりした感触が素晴らしい。

 などともぐもぐ食べていたらたちまち平らげてしまった。
 水を飲んで一服するわたし。

 後ろの3人のヲタクたちはもう帰ってしまった。
 お座敷にはわたしひとりである。

 「なんとものどかであるな。・・・こんなに落ち着いたのは何ヶ月ぶりであろうか。」そんなことを考えながら、ひょいとお座敷の壁を見た。なにやら妙なものが貼ってある。・・・これは川柳であるな。

 一首、一首丁寧に読んでいくとわたしは目玉が飛び出した。
 これは上手い!!そして凄い!!

 「低周波治療器 肩にMAXで 御坂美琴と いちゃつく気分」

 

(↑サブカル川柳?)


 字余りであるが上手い。短歌を作っているわたしが言うのだから間違いない。これは上手い川柳である。
 さらにこの川柳を入選させてしまう選考委員にもわたしは感心した。
 しかし「レベル6痛記念賞」とはどういう賞なんだ!?
 さらにらき☆すたの聖地で「御坂美琴」はイイのか!?・・・そんなツッコミを入れながらわたしはお座敷を立った。

 すると、おや?・・・お座敷の隅に二階にあがる階段がある。


 

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 お座敷の一番隅に二階へ上がるための階段があるではないか。

 しかしちょっと見た感じではここに階段があるとは考えにくいであろう。まるで「忍者屋敷」のようなミステリアスな雰囲気を感じながら、わたしは二階へ上がってゆく。

 「ぎしッ!ぎしッ!」木がきしむ音がする。
 なんとなく大西茶屋の人に悪いような後ろめたさを感じながらわたしは二階へ上がった。

 そこには。・・・

 

(↑らき☆すた神殿)


 美水かがみ氏のサイン色紙がまるで神棚のように鎮座してある。しかも盗難防止用のガラスケースまでついて。
 「なるほど・・・ここがらき☆すたの聖地の中心であるのだな。」

 ようやくRPGの冒険者のごとく、らき☆すた神棚を発見したわたしはパンパンと二拍して願をかけた。

 「いつの日か、らき☆すた第二期がTVで放映されますように。・・・」

 と拝んだわたしはひょいと横を向いた。
 らき☆すた+マクロスFのフィギュアやらハルヒや長門のフィギュアやら雑多なものが置いてある。
 これはおそらくこの鷲宮のコアとも言うべき「大西茶屋二階」にヲタクたちが置いていったものであろう。

 

(↑雑誌・漫画の類)


 さらに目を後ろに回すと『コンプティーク』やら漫画雑誌が置いてある。


 わたしは大西茶屋二階の座敷にどっしりと腰を下ろすと『コンプティーク』を読み始めた。
 二月の柔らかな日差しが肌に心地よい。
 二階には誰ひとり上がってくる者はいないし、一階からは何の音も聞こえない。

 「うあ〜・・・平和だな・・・平和すぎるわ・・・この環境は。」

 わたしはあまりの平和な雰囲気に不可思議な非現実感を感じ始めた。
 さらに食後の眠気が襲う。

 「んあ〜・・・」
 ゴロリと横になったわたしはいつしか居眠りし始めた。


 

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 「んあ〜・・・」

 わたしは唸った。なんだか心地よい。もう一度唸った。
 「んあ〜・・・ん?・・・ん??・・・・んんん!!!」

 わたしはいきなり飛び起きた。
 わたしは大西茶屋二階で居眠りしていたのだ。とっさに腕時計を見る。時刻は実にPM3時ジャスト。まるまる一時間眠っていたのだ。

 わたしはあわてて帰る準備をし始めた。
 東京駅から秋田新幹線が出るのがPM5時ジャスト、少なくともPM4時30分には東京駅に到着していなくてはならない。

 そうしないと秋田へ帰られないではないか!!

 かばんを持つとどたどたとわたしは階段を駆け下りた。案の定、もう一階には客もいなければ、蕎麦を作っていたおばさんたちもいない。
 わたしはなんとなく後ろめたい気分を感じながら、音が出ないように大西茶屋のドアを開けると外に飛び出した。

 次の瞬間、わたしは「おおッ!!」と驚嘆した。
 こ・・・この風景はまさしく「らき☆すた」!!


 


 

(上はテレビアニメ「らき☆すた」の一場面。
 下は大西茶屋の前の風景)

 わたしは大西茶屋前の風景をデジカメに納めると、鷲宮駅に向かって走る、走る。

 途中で「らき☆すた」関係のモノを何個かデジカメに収めた。


 ハアハア言いながら、あっという間に鷲宮駅に到着。

 

(↑鷲宮駅)

 最後の記念に鷲宮駅を写真に収めると、わたしは鷲宮駅に到着していた電車に飛び乗った。
 この時の時間、実に3時30分、ぎりぎりで新幹線に間に合いそうだ。
 わたしは安堵するとカバンに入っていたウーロン茶を一口飲み込んだ。「ごくり・・・」

 鷲宮駅から電車がごとごと動き出す。

 わたしは一種独特な感慨にふけっていた。

 「トルコやチェコに行くことだけが『旅行』ではない。埼玉県に行くことが、それが濃密な体験になれば、立派な『旅行』として成立する。」・・・

 わたしはかって「外へ外へ」と海外を目指した。
 しかし今度は「内への旅」を開始しても良いのではなかろうか。それは「唯一の未知の惑星は地球だ」という名言を唱えてマクロコスモスからミクロコスモスへの視点の転換を図ったSF作家、J・G・バラードのごとく。

 東京や埼玉に限らない。
 岩手や山形、秋田県内、それどころか自宅の近所でも良い。

 目を細めてミクロな世界に目を向ければ、即座に『旅行』は成立する。

 わたしは今後、海外に出るばかりではなくもっと身近な世界へ目を向けてみよう。そうすればまた新たな発見は始まってゆくだろう。

 ・・・そのようなことを考えながらも電車は上野駅に向かって突っ走ってゆく。

 わたしはこのような極めて大事なことを気づかせてくれた「らき☆すた」と鷲宮神社に感謝しながらもう一度、ウーロン茶を飲み込んだ。

 「来て良かったな・・・。」胸一杯の充実感に心を膨らませながら、わたしの「らき☆すた聖地巡礼」の旅はこうして終わった。

 これから秋田へ帰ったら近所を散歩してみよう。・・・

 そのようなことを考えているうちにも電車は上野駅に向かって突っ走ってゆく。2月の陽はまだ短い。午後4時の夕日を眺めながら、わたしは新たな決意を噛み締めていた。


(了)

 

 

(黒猫館&黒猫館館長)