抵抗のあした

かって、そして今もいじめで苦しんでいるすべての者のために。

  

1 

・・・午後三時。
暗い雨の降る日曜日

あなたはほの暗い自室で
ひざをかかえて
うずくまっている。

あなたのまわりには
破られたノート
へし折られた鉛筆
引き裂かれたセーラー服が
屍骸のように
散らばっている。

明日は月曜日
また あなたにとっての地獄が 始まる。 

 

2 

「ワタシ
ウマレテ コナケレバ
ヨカッタ」

あなたは一万回目の
同じ文句を
繰り返すと
静かに 静かに・・・
自分だけの繭に
入り込んで ゆこうとする。

一度入りこめば もう二度と
出てきたいとは 思わない
ほの暗い 羊水へと
 沈んでゆく。  

 

3 

だが あなたには わからないのか?

口を閉ざし 抵抗をあきらめ
自分だけの繭に 入り込んだ人間こそ
世界と呼ばれる 暗黒の体系の 一部品として
組み込まれてゆく運命にあることを。

あなたには わかっているはずだ。

虐げる者。
虐げられる者。

その二者は実は 同一の存在の
表と裏で ある ということを。

だからこそ 耳をすませ。
かって 叛旗を翻し
虐げる者と
虐げられる者とが
淫猥に 絡み合う
この「世界」に抵抗した
ひとりの姉妹の叫びに。

  

薄気味の悪い白夜に覆われた
この国にも かって
「闘い」はあったのだ。

1960年6月18日。
東京大学学生・樺美智子は
国会議事堂突入を 目前として
「鬼の三機」と呼ばれる 暴虐のしもべの
凶手に倒れた。

23歳だった。

あなたには
樺の意思がわかるか? 

 

5 

東京大学。
そこは この国で 最も愚劣な
暴力装置の 中枢だ。

そこに留まっていれば
学生たちは 虐げる側の 一員として
安楽な 生活が 一生保証されるのだ。

しかし 樺は裏切った。
愚劣極まる 暗黒構造の部品として
この国の 虐げる側の一員となる
ことを 拒んだ のだ。

抵抗。・・・樺は抵抗したのだ。

虐げる者。

虐げられる者。

この淫猥な構造を 根底から
くつがえす ために。 

 

・・・しかし 運命は残酷だ。

この国はそんな彼女に死を与えた。

しかし ゆめゆめ間違うな!
私は死者を称えよといっているのではない!!

あらゆる死は犬死なのだ。
あらゆる死に意味などないのだ。
あらゆる死は絶望を意味するのだ。

だからこそ 生き延びた者は
死者のあやまちを くりかえしては
ならない。

そこで。あなたよ。
いじめられているあなたよ。

あなたは樺の死から なにを学ぶか?

暗黒の体系に抵抗する強さ。
・・・・・結構。

そしてもうひとつ。

ありとあらゆる逆境にあっても
転戦に 転戦を 重ね
生き延びてゆく しなやかさだ。

それこそが重要なのだ。
それこそが この世界の 暗黒の 体系を
根本から覆す 最後のキイ なのだ。

そして そのために 必要なものは
なにか?

・・・それは 希望だ。

 

 

・・・午後5時。
すっかり日が翳った部屋で
あなたは うっすらと
眼を開ける。

そして破られたノートを丁寧に修繕する。
へし折られた鉛筆を 新しいものと交換する。
切り裂かれたセーラー服を もう一度
縫い合わせる。

それはもう一度 抵抗するための準備。

あなたには もう わかっている はずだ。

あなたこそ 希望そのものなのだ。

虐げられたゆえに

虐げる者の奢りと
虐げられる者の狡さを
認識した
希望そのものなのだ。

運命を 歴史を 
そして そのすべてを 包括する
暗黒の体系を根こそぎ破壊せよ!

闘え。
そして生きろ。

希望の光に包まれた
あなたは いま ひとり
自分の力で

スクリと

立つ。

 

(決定稿2002年5月23日) 

(修正第一稿2002年5月29日)