異色小説 

この部屋では稀少価値が高く、また内容も異色と思われる小説を紹介します。 

 

 

 

『水神伝説』

水神祥著。

昭和59年1月28日初版発行。泰流社刊。表紙・扉絵、梅木英冶。カバ帯完本。本書の著者は宗教学者の鎌田東二氏。本書は極めて異色な内容である。どことも知れぬ聖なる地で、神秘的な力を持つ巫女の活躍が描かれる。これだけだったら、最近流行のオカルト・ミステリーに留まるところであろう。しかし本書の場合、物語が突然、詩になったり戯曲調になったり、論文調になったりする。しかもそれぞれ極めて完成度の高いレベルに達している。特筆すべきは「論文調」の部分で、かなり本格的な宗教論議になっている。総じて、ごった煮的な感触はあるものの、かなり本格的な異色オカルト小説になっていると見てよい。普通の小説は卒業したと言う人は本書を読んでください。驚愕します。稀少価値は中程度。一年も探せば、大抵見つかります。古書価は3000円ぐらいか? 

 

 

 

『吹雪の星の子供たち』

山口泉著。

1984年3月30日初版発行。径書房刊。帯文谷川俊太郎。カバ帯完本。栞付き。地味ながらも着実な執筆活動を続けておられる山口泉氏のデビュー作。この作品では氏のもうひとつの持ち味であるグロ趣味が極力抑えられ、極めて感動的なファンタジー長編となっている。といってもさすが山口氏、単なるファンタジーでは終わらせないところがニクい。お話は少年少女を主人公とする一夜の物語。この物語の世界では少年少女は一定期間、宇宙へ旅立つことをしなければ大人になれない。その前夜、出発を目前にした少年と少女、そして先生や警察、市長等といった人物たちも巻き込んで、極めて寓意的な物語が語られる。戯曲を思わせる緊密な文体、異世界を創造するにふさわしい壮大な構想力、そしてなにより「最も虐げられた者だけが本当に強いものである。」と語る山口氏の強靭な志が物語をひきしめる。総じて一級品としかいいようのない作品。哲学的な香気さえ漂う。精神的に成長したいと思っている若い人に特にお薦めします。古書価は2500円程度。ブック・オフ的古書店でもたまに見かけるので入手はそれほど難しくない。