心の時代のIT革命

(講演日・2007年12月28日)

 

 

 

 本年、厚生省の行った調査によると「ネットカフェ難民」(ネットカフェで寝泊りする定住する場所のない人を指す用語)は5400人であるそうである。しかし一説によるとサウナ・カプセルホテル・フリーター向け簡易宿舎などに寝泊りする「難民」を合わせると膨大な中間領域が存在しており、その数は数十万人から数百万人に登ると言われている。広い意味での「ホームレス」がますます増大しているのだ。
 この「好景気」に沸く日本で、なぜこういった人間たちが増え続けているのか、一考に値する問題であるだろう。

 さて「ホームレス」というと「お金がないため」住居を失った人間たちであるという説が蔓延しているようであるが、実態はそうではないらしい。ホームレス支援団体の調査によると昨今のホームレスになる原因は「金銭貧困」よりむしろ「人間関係貧困」であるという。

 さてそれでは「人間関係貧困」とは何か?

 解りやすい例を挙げよう。昨今急激に増加している引きこもり、ニート、こういう職を待たず、親と同居してしている人々が突然に親の死に直面する。彼らを待っているのは異常に高額の相続税である。そうなると彼らは住居を手放してアパートに入らざるを得なくなる。しかしアパートに入るには「連帯保証人」が必要である。頼るべき友人を持たない彼らは連帯保証人の不在が原因でアパートに入ることができない。そうして彼らは除除に住む場所を失い「ホームレス」になってゆく。

 これらは引きこもりやニートなど特殊な人間の問題ではない。「コミュニケーション能力」が希薄だと言われているすべての現代の若者に共通する「人間関係貧困」が引き起こす大きな問題の氷山の一角である。

 人間関係を維持するのがニガテな若者たちにすぐに人間関係に習熟せよ、と言っても無理な話である。しかしそれでも人間関係を維持しなくてはわたしたちに未来はない。かってアルベール・カミュは、長編小説『ペスト』において巨大な不条理に対抗する人間同士の「連帯」の必要性を説いた。現代の日本社会に住むわたしたち日本人もまた「格差社会」という不条理に対する「連帯」の必要な状況に直面している。

 そこでわたしは「心の時代のIT革命」を提唱したい。従来の「IT革命」は経済面での出来事であったが、今後は人間同士の横のつながりを構築するためインターネットを活用するのだ。そのことが現代の問題である「人間関係貧困」を改善する手段になってくれることを切に祈る。面と向かっては他人と上手くコミュニケーションできないがパソコンを通じてなら自分の意思を伝えることができる、こういう人たちをわたしは何人も知っている。

 しかし言うが易し、行うは難しである。「顔の見えない「友人」同士の付き合い」であるITを用いて人間関係を豊かにしてゆくのか。それは21世紀に生きるすべてのわたしたちに突きつけられた課題であろう。

 真に豊かな社会とは単に金銭面で豊かなだけでは不十分だ。人間関係が豊かでなくては豊かであるとは到底言えない。

 「人間同士の横のつながり」、ネットの世界には様々な年齢や立場の異なる人々がいる。そういう人間たちとしっかりと「連帯」すること、このことを実現するような制度やしくみをガッチリと構築してゆくこと。このことにはまだ時間がかかりそうである。しかしネット第一世代であるわたしたちが取り掛からなくてはいつまでたってもムーブメントは起こらないだろう。

 この現代のいびつな日本社会の構造を少しづつ良い方向へ変えてゆこうとする水面下の静かな動きへ向かってまず「連帯」すること、それが21世紀という新たな時代への出航の第一歩である。

 

 

(黒猫館&黒猫館館長)