山田太郎の遺書

 

 

ズルいですよおォ〜。
ボクになんかしゃべれだなんて。

ボクはもう死んでる人間なんだから。
死んでる人間にしゃべれなんて館長さん、
あなたも相当キテるひとですね。

くすっ。

だいたいボクが死ぬのは当然のなりゆきだったんですよ。
死ぬために生まれてきた男、
それがボク。

アアッ。

これあたりまえか。

アハッ。

東京に出てきてから三年半、
やっと死ぬ決心がついたんですヨォ。

雨の朝。
そうあれは六月の雨の朝でした。
じとじとと降りしきる濁った雨。
そして雨が降り落ちてくる空はあくまで鉛色で。

確か六時頃だったと思うなァ。

ボクは私鉄小田急線和泉多摩川駅から急行列車に飛び込んだ。

それだけですよ。

アッという間もなかったなあ。
ドン!と衝撃が来てもうなにもわからなくなったんです。

死ぬ?

そんなこと考えてるヒマもなかったですよ。
生きてるひとは気楽でいいなァ。

エヘッ。

えっ。

もっとしゃべれてんですかァ?
勘弁してくださいよォ。
もう生きてるころのことは思い出したくないんだなァ。

なんでかって?
もうボクだってツライんですよォ。
全くぅぅ。

ラーメン。
そうラーメン一杯喰ったんですよ。
飛び込む前夜。
夜の10時頃かなァ。
一杯680円のラーメンをね。

でもうまいとは思わなかったなァ。
場末のキタないラーメン屋でね。

テーブルにらー油の油が沁みこんでる感じでぬるぬるしてて。
店の奥に『野望の王国』だの『暴力大将』だのが全巻揃って置いてあるんですよ。
だいたいどんな店か想像つくでしょ。

でもなんでラーメンなんか喰ったのかなァ。

死ぬ前だから、もっと豪華なもの喰ってもイイと思いますけどね。
今ならばね。

でもやっぱりラーメンだった。
それしか思い浮かばなかったんだな。
きっと。

ラーメン一杯あの世逝き。

アハッ。

これギャグにもならないな。

ゴメンナサーイ!!

アハッ。

ボクのような身長158センチ、体重68キロの男にはラーメンが合ってるんですよ。

なぜかって?

アハッ。

そんなこと聞かないでくださいよォ。
イヤだなあ。
チビにラーメンは似合う。

アッ。

これいいですね。

ボクよりも背の高い女の子。
あの時代だからみんな「中森明菜」カットしてましたよ。
そんな女の子たちが「ティラミス」を学食で食べている時に思いましたよ。

チビな男には具の少ない、味噌の浮いたラーメンが似合うって。

アハッ。

ボク、チビだから女の子にもいつもいじめられていましたよ。
もちろん男にもね。
あたりまえか。

アハッ。

サルですよ。
サル。
ボクのあだな。

秀吉じゃありませんけど。

サルみたいにちょこまか動き回る。
だから追いかけたくなるんだろうな。
みんな。

もちろん、
殴るためですけどね。

女の子が追っかけてくる。
なぜって?
殴るため。

アハッ。

ザブトン一枚!

にもならないか。

エヘッ。

一日に27発殴られたこともありましたよ。
顔がボコボコになるぐらいにね。
そしたらみんなボクのこと、
ハンサムになったと言うんですよ。

ウレシカッター!!

殴られてハンサムになった男。
こんな奴は世界でもボクひとりだけですよね。


でもボク大学辞めようとは思わなかったんですよ。
亜細亜大学落ちて行くことなくなったボクを二浪の末に拾ってくれた
聖ヨハネキリスト教大学ですからね。
こうみえてもボク神学部なんですよ。
カッコイイでしょ。

アハッ。

毎日毎日、下宿にこもりっぱなしでしたよ。
そしてたまに大学に行くと殴られる。
これの繰り返し。

下宿でなにしてたかって?

イヤだなあァ。
そんなことまで聞かれるなんて。

エロ本読んでオナニーしていましたよ。
一日に10発発射したこともありますよ。
ボク。

チビだけど。

アッ!

チビだから逆に精力絶倫なのか。

アハッ。

そんな時に思ったんですよ。

「死んでみようかな」って。

だってボクみたいな精力絶倫チビ男がはびこったら、
人類の未来暗いじゃないですか。

アハッ。

わかったようなこと言ってる俺。
なんなら殴ってもイイですよ。


(ボコッ)


痛いなァ。
やっぱり格闘技やってるひとのパンチは違うな。
なんというか、こう、重いっていうか。

じゃあ館長さん。
ボク帰りますよ。

えっ!?

どこに帰るのかって?

やだなー。

ボクみたいなやつに帰る場所なんてないですよ。

だからこうしてみなさんのインタヴューに答えてるんですよ。

実はね。館長さん。

あなたはあんまり弱い者いじめに興味ないひとみたいだからよかったけど、
ボクをいじめてやろうというやつがボクを呼んだら正直憑きますよ。

え?どういうことかって?

簡単なことですよ。

「そいつがボクになる」んですよ。

そしてまたインタヴューをされたそいつがまたインタヴューをしたやつになってゆく。

そうですよ。

ボクはもう日本中にいっぱいいるんですよ。

うふふっ。

あ。

次のひとがボクを呼んでますね。

それじゃ、館長さん、あなたイイひとですね。
もちろん皮肉じゃないですよ。

うふ。

それじゃ。

さよなら。

 

 

(決定稿2005年5月27日)