短歌の部屋

 この部屋には館長の自作短歌が収められています。


((C)黒猫館&黒猫館館長)

 

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悪夢

超都市

風葬の頌

アルカトラス市立山王中学校1980(別室)

胎児

青春

強迫観念

おしの(別室)

八月の掟

聖母哀傷歌

22世紀の朝

AD2005.冬へ

ショウペンハウエルの呼び声

狂神都市

経血

アルテミスの風

NEWまどか絶唱(サブカル短歌)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悪夢(5首)

目覚めない・・・悪い夢みて目覚めない そしてそのまま現実(うつつ)となった

破壊する大怪獣の眼球がわれひとりだけをじっと見ている

不意に鳴る真夜の電話に出てみれば幼きわれの泣き声がする。

春四月 午睡ののちに目ざむれば天刑病棟回春院

校庭で生徒切り裂く担任を笑って見ている校長先生
 

  

 

 

 

超都市(5首)

ゴルチィエのトーガ戦がせ夜を往く PARCO3宇を神殿として

十色のマニキュア十本の指に塗り分けて極彩都市の迷彩とする

ライダーズ・ジャケツ纏えば超都市の電光噛み切る黒豹となる

生臭きチーマーどもを貴族とし せめて奴隷にと鞭を乞いたし

闇黒(あんこく)に銀の蛾一羽のラメを入れ 魍魎の群の一匹となる

 

 

 

 

 

風葬の頌(5首)

朽ち果てし狂院の檻に忍び込み 自らを閉ず 人生を閉ず

屈葬のごとくぐもりて二つまなこをじっと閉ず 朝など来るな

われだけを乗せて行きたる終バスは宇宙(そら)へ飛び立つ風葬の柩

死にたしと思ふ夜半にみぞれ降る 部屋昏くして眠りに落ちゆく

青空に繋がるやうな草原を駆け抜けていきさらば地球よ

 

 

 

 

 

 

胎児(5首)

ほの白き灯篭流しに乗せられて畸形児の我は棄てられてゆく

奇怪なる堕胎器の爪に挟まれて冥き穴へと引きずられゆく

葡萄状鬼胎とてわが子なれば近所に配れリ 葬式饅頭よそおいて

あらかじめ死んだ胎児が哭いている 輪廻の闇の底果てしなく

赤子らは罪深きゆえ泣いている 受刑としてのみひとの生はある 

 

 

 

 

青春(8首)

通り魔をやってみたしと思ふ日々 遠き夏の日十九のわれよ

死してなお悪夢続きゆく予感 二十歳のバースデイの冥きかなしみ

大便を自らの口に詰め込んで縫い閉じてしまう・・・さらば青春・・・

青年の真白きティー・シャツはいつか血の花咲かすキャンバスとして

君がまといしブルー・ジーンの空色にわれ駆け抜けて墜ちてゆきたし

デス・メタルなんども弾きたるエレキを砕きわが音楽を永遠に閉ず

ジム・モリソン等痴れ者の唄を愛したるわが青年期よ『THE END』さらば

一瞬のサーチ・ライトに照らされた花束落ちて・・・そして暗転

  

 

 

強迫観念(6首)

 

四階の中空に立つ人影は十年後に死ぬわれの亡骸(ぬけがら)

鳴るごとに惨の予感を伝えつつわれを狂わす電話一台

悶々と眠りつづけて目覚めむれば血のしたたりが外から続く

新聞の社会面に載るわれの顔が別人のごと笑みこぼしつつ

写真からわれの頭が消えている 自殺後にみるファミリーアルバム

「生まれ出ぬのが最善である」然り、然れど湧く涙かも 

 

 

  

死(6首)

 

自らのドッペルゲンガーに怯えし日も過ぎゆきてわれなどもうおらぬ

睾丸を切り取り犬にくれてやる 劣性遺伝子われにて断たむ

君となら手を取り合って往ける筈 黄泉比良阪(よもつひらさか)超える彼方へ

神を呪いし青春終わりて今はただわれ消滅することをのみ望む

おおいなる救済なれどわれは泣く 「輪廻などなくひとは闇に帰るよ」

墓場とて信仰もたぬわが身には亡骸抱きてただ眠るのみ 

 

 

 

八月の掟(6首)

 

苛烈なる陽光皮膚に刺しこみてわれの「男」を焙り出しゆく

むしろ肉として果てたし プールサイドの午睡の夢は

この夏の日に思想などいらぬ 唯、物体として焼かれゆくのみ

肉を使役さすれば心はあとからついてくる 八月の掟

炎天のプールサイドは受刑台となり一万本の鞭われに降る

獣の欲望水のなかにて消火せむ 無限のターンにむせぶ俺の肉 

 

 

聖母哀傷歌

  

突っ立っている眼のない男の眼窩には一億のミミズのたうっている

生きていた堕胎児を父親の胎内に送り届けるアカネコヤヤコの発狂便

死化羽(しかばね)となずけしバイクを駆りてゆく 地獄まで続けブラッディ・ロード

キノコのごとき陰茎がびっしりとわが行く道に生えそろっている

去勢終えたるこの夜の果てメガロ・シティに旅立たむ 奇怪なる老嬢として

殺戮(ジェノサイド)の終(つい)えし夜に誰唄う 聖母哀傷歌(スターバトマーテル)鳴りやまざれば 

 

 

 

 

22世紀の朝(6首)

 

飛来せし宇宙生物の細胞は遥かにはぐれしわが父のもの

ガンとても我が子としてや育まん 畸形宇宙の空に叫べば

青い雨降りそそぐ音で目覚むれば いまだ気だるき22世紀の朝

毒入りの驟雨したたる頽落都市 生体玩具ドアを叩けば

今朝喰いし無精の卵 睾丸へ かなしき受精 鈍き腹痛

くれなひのドレスはいつか男娼の踏み殺されし我が墓碑銘(エピタフ) 

 

 

 

AD2005.冬へ(7首)

 

罪なくして斬らるるは世の理ぞ 池袋駅便所でホームレス死す

ハムスターのかわゆきまなこの内側に炎々と燃ゆる地獄が視ゆる

マナ板に男を乗せて肉を削ぐ エグザス下北沢地下室にて

うなりあげ特急列車通るたび 肉片に砕ける自分が視ゆる

さいはては流れ流れてストリッパー 客の刃に殺められ・・・幕

草原で胸身にピアスを刺し込んで輝く夏の栞となさむ
(2005年夏の記憶)

星星が遠ざかりゆく暗天に駆け去ってゆく自分が視ゆる

 

 

ショウペンハウエルの呼び声(6首)

 

岩波文庫『自殺について』百六ページ これ一冊で人生は足る

かってヒトを殺(あや)めし友よ 死ね さもなくば全人類を刺し刺し刺し殺せ

亡き父の嘲りを背に通勤す 犬を殺せと屠殺場にて

交通事故・過失致死の責任をとって一生を奴隷として生きてゆくのだ

破産手続き済ませし夜にひとり観ゆ 「人妻集団暴行致死事件」

通り魔をやってみたしと想う日々 還らぬ夏の日十九のわれよ 

 

 

狂神都市(七首)

 

PARCO三基を炎(ほむら)とし狂神都市SIBUYA少年の腸(はらわた)抉(えぐ)る

体刑を受けざらむゆえ少年は青年となりてのち鞭を望む

奴隷制度消え去りしゆえ 男らは首輪の代わりにネクタイをする

男らのネクタイの先は女らの小指の先に繋がっている

割礼儀式志願の少年の列長蛇に及び・・・人類不滅

みずからの射精を口で受け止める 新世紀入社実技試験

「被害者の糞を喰わせる」レイプ犯更正教育プログラム・1(ワン)

 

  

 

 

経血(5首)

 

肛門性交(アナル・ファック)にて生まれし赤子がすこしずつ糞のかたちにくずおれてゆく

経血が垂れててんてん道しるべ自殺名所の海へと導く

経血を嵐のごとくに撒き散らし血の海に沈むあなたとともに

卵管で首を吊っていたわが姉の命日は初潮の朝

吐き出した内臓をちちははに投げつけて少女はとはに眠りゆく

  

 

 

アルテミスの風(6首)

(2010年トルコ周遊旅行のおもひでと共に)

 

亡き母の骨が舞い散るカッパドキアに 遠き秋田の桜にも似て

カッパドキア地下迷宮のさいはてにわが人生の終点を見ゆ

エフェソスの地下から黒く立ちのぼる終焉告ぐる奴隷たちの声

アルテミスの風にゆらめく精霊と童女に還ったわれかくれんぼ

囚人の慰安のごとく鎮まりぬイスタンブウル・ダンスショーの闇

回教の僧衣まといし女らは黒きかなしみ双眼宿し

 

 

 

NEWまどか絶唱(全18首)

 

 

(↑アニメ『魔法少女まどかマギカ』)

 

 

 ・まだなにも知らなかつた頃 まどかの笑顔まぶしき

 ・インキュベーター その澄んだ瞳になぜに邪(じゃ)はみあたらぬのか

 ・マミられし者よ 後につづく者たちの戦いが始まる

 ・音ゲーの上のダンサー 杏子 蛇のごとしなやかな身体(からだ)よ

 ・食物に拘(こだわり)し杏子 ただ生きることに必死だつた君よ

 ・さりげなく専業主夫の父よ 劇の裏側で君は何を悩みき

 ・やがて魔女となる物語に 観客の少女らも眼を見開きぬ

 ・アヴェ・マリア 鳴り響く劇場に さやか君の最後の笑顔

 ・ワルギルブスの夜 君の悲しみに黒き夜のざわめきを

 ・娘に往けといふ母よ 今生の訣(わか)れと君は悟りたり

 ・忘却の後 証拠たるものはほむらの髪に残されし紅きリボン

 ・ほむら 残されし故寒くはないか 黒く光る高層都市のはざまで

 ・終劇 さらばそして五人の少女が音もなく闇へ消え去りてゆく

 ・五人のうち三人が死ぬ映画を観た後のビール にがき

 ・終電の中 ざわめく女子学生の影にべったりと魔女が貼り付いてゐる

 ・「愛と勇気が勝つストーリー」ならねどわれはもう一度信じてみたゐ

 ・魔法少女の映画観て 天仰ぎ星想ふ さらばまどかよ

 ・どこにでもいるならまどかよ 今夜は夢のなかで笑顔の君に逢ひたゐ

  

 

 

注> 2012年10月、わたしは池袋シネリーブルで「魔法少女まどかマギカ 始まりの物語」「永遠の物語」を観劇した。もちろんすばらしい出来であったことは言うまでもない。
 
 わたしは当初、この映画の論評を書いてみたいと思ったが、それではあまり面白くない。
 そこでわたしはここ数年来、筆を執っていなかった「短歌」に再挑戦することにした。

 さて「アニメを観て短歌を作る」。

 この手法は現代の中堅歌人・黒瀬珂瀾(春日井建の弟子)その他数名の歌人の先業が存在しており「サブカル短歌」と呼ばれている。
 わたしも福島泰樹氏の「月光の会」に現在も所属している「歌人」のはしくれとして、この「サブカル短歌」にチャレンジすることにした。

 しかし何ぶん、数年ぶりの短歌の執筆である。
 字余り、字足らずが頻出したが、そこら辺は今後の課題としてご容赦いただきたい。
 むしろ自由律短歌「57577に拘らない短歌」として本短歌群を読んでいただければ幸いである。