極楽往生小唄

 

いつぞの人が間違えた
この世は人の道ならず
この世はしょせん地獄道

餓鬼の時分は親の手で
色気ついては友の手で
人となっては社会から
殴り 殴られ 殴られて
今や殴りが恋しくて
わざわざヘマをやらかして
殴りを乞うているのです

今や女房子供持ち
反吐の代わりにうっぷんを
晴らす道具にしています

女房殴って血の涙
子供殴って血の小便
自分殴れば地獄堕ち

ただそれだけのことですよ

狂った弟泣き喚き
精薄妹笑ってます

今や香港売り飛ばされた
姉の写真の一枚が
ニッコリ笑って語ります

「どうしてこの世は地獄なの?
地獄は良いトコ 悪いトコ?」

馬鹿な親父のオツムには
あんまり難しい質問で
ウ〜ンと唸ってしなだれます

六畳一間のこの家で
五人揃って暮らしてます

父を殺して40年
母が自殺して30年

今や位牌も質屋へと
売り飛ばさなきゃ喰えません

涙も涸れて怒りも忘れて
ニコニコしたツラくっつけて
明日も地下鉄労働者
苦しい時には星を見上げと
いつだか母に教わった
秘密のまじない思い出し
ハッと夜空を見上げても
濁り汚れた俺の眼にゃ
今やなんにも見えません

悲しいんだか
嬉しいんだか
そんなことさえ
わからなくて
ただおろおろとしてしまうんです

そんなこんなで時が過ぎ
今や息子の目玉の中に
ギラギラ輝く光を見ます

しょせん六十路(むそじ)のしなびた腕で
どうして二十歳(はたち)の若者の
金属バットに耐えられましょう

このまま殺(や)られりゃ本望です
と素直に言えない親心

やっぱりカチカチカッター出して
殺(や)られる前に殺(や)っちまえと
喉笛切って殺しました

二十歳の男の喉笛切るは
六十男にゃ応えます

ぜいぜい息をしていると
うしろで見ていた女房が
アレーと叫んで逃げ出します

馬鹿な女でも妻は妻
せめてわたしが殺しましょうと
玄関口で捕まえて
首を締めて殺しました

それから弟妹も金属バットで
頭かち割り
それでも死なずに血を吐いて
家中血だらけマッカッカです

それでも100発見舞ってみたら
ようやくおとなしくなりました

シーンとした家で今一人です

楽しいような寂しいような
イロンナ思い出チラツキます

母の教えを思い出して
もう一度星空を見上げてみたら

アア!!スゴイ!!みんな居ます!!

十歳の春に草野球で俺と遊んでくれた父の笑顔が見えます
十五才の夏にいじめられて帰ってきた俺を慰めてくれた母がいます
二十歳の秋に一生に一度の東京旅行で
俺と写真に写っている弟がいます
三十歳の冬に飯場に弁当差し入れてくれた妹が笑ってます

みんな星になったんです
みんなキラメキになってお空に浮かんでいるんです

俺は今顔も見たことの無い姉の質問に答えます

「姉さん地獄はいいところだよ」

そういいながら喉笛カッターで切り裂きました
もう声もでません

そう思いながら手首をカッターで引き裂きました
もう後戻りできません

そう思いながら心臓にカッター付きたてました

痛みよりうれしかったです

わたしは還暦過ぎてからようやく
自分のコト自分で決められたんですから

もうなんの未練もありません

死にます
死んでいきます
死にたいです

関係ないです
触らないでください
わたしは死ぬために生まれてきたんです

「この世は人の道ならず
この世はしょせん地獄道」

今思いましました
これ母が歌っていた子守唄だったんです

さようならみなさん
わたしはいま幸せです。

さようなら 

 

(決定稿2003年12月3日)
(この詩に曲をつけて路上で歌ってくれるひと募集します。)