『黒い卵』 

 

 

 

栗原貞子著。中国文化研究所刊。初版昭和21年8月30日発行。裸本完本。定価5円。 

 原爆被爆者の詩集は数多いが、この『黒い卵』はその中でも突出した光彩を放っている名詩集である。著者栗原貞子は昭和20年広島で被爆、その年のうちに「悪夢」など数々の詩篇を書く。翌21年これらの詩篇を集めて詩集『黒い卵』発行。しかし当局から弾圧を受け詩篇数編が削除される。

 栗原の詩は単に原爆への恐怖、呪詛を語っただけではない。あまりにも有名な詩「生ましめんかな」に代表されるように新たな生の誕生に未来への希望を謳いあげる。そこには原爆という試練を乗り越えて、永久平和を希求する崇高な精神が宿っている。この意味で栗原はまこと稀有な「原爆詩人」であるだろう。

 原民喜の『原民喜詩集』、峠三吉の『原爆詩集』と共にこの『黒い卵』は人類が後世に語り次いでゆくべき名詩集である。