『戦艦大和の最期』

 

 

吉田満著。創元社刊。初版昭和27年8月30日。カバ帯完本。定価160円 

 本書は太平洋戦争の戦記ものである。昭和20年旧日本軍の新造戦艦、戦艦大和はフィリピン沖で米空軍と激突、壮絶な撃沈を遂げた。本書はその真実の記録である。

 戦記ものというものは時に英雄調であったり、時に自虐的であったりする。要するにその人間の主観が色濃く投影されるわけだ。しかし本書は違う。なぜ違うかはその文体を見れば一目瞭然であろう。本書はすべて漢字とカタカナだけで書かれている。事実だけを淡々とストイックに語るその文体には主観など入り込む余地はない。ただこの戦争に従軍した吉田氏の透徹した眼差しがあるだけなのだ。

 参千人に及ぶ乗り組み員たちの無数の死、それを吉田氏はあくまで淡々と語る。その平静な口調が恐ろしい。昨今の凡百のホラー小説など本書の前では紙屑も同然だ。そして驚くべきは本書は奇跡的に生還した吉田氏がたった一日で書き上げたものなのだという。それはもしかしたら参千人の死者の霊が吉田氏の口を借りて語ったものであるのかもしれない。

 さて本書には様々な版が存在する。書影は一番始めの初版本。北羊社から特装版がでているがあまり人気はないし古書価も高くはないようだ。

 戦争というものについて真摯に考えてみたい青少年の諸君に特に推薦する一冊である。