― 諸家妙吟 ―
男 を 詠 む
昔男ありけりわれ等都鳥 富安風生
飛花落花昔男は海を来し 箱才止夫
寒林を男同士がただ歩く 野村悦子
蕪切つてもう手伝はぬ男かな 岸本尚毅
わが叔父は木で病む男惜春鳥 寺山修司
鴨鍋のさめて男のつまらなき 山尾玉藻
女ほど知恵はまはらず磯遊び 藤田湘子
船霊や風吹けば来る漢たち 中村苑子
家にあればただの男や蜆汁 松村日出子
夏衣えたいの知れぬ男かな 有馬朗人
なみなみと男の沸かす初湯かな 小島花枝
男ありむさしをあるく銀狐つれて 阿部完全市
出刃を研ぐ男ばかりの夏季講座 若月勝男
ごきぶりの堂々として男振り 津久井紀代
荒梅雨に男ら浮いて歩きけり 小島 健
竿燈を女泣かせの腰の上 鷹羽狩行
身に入むや最も先師に似る羅漢 伊藤白潮
春蘭や男は不意に潰さるる 飯島晴子
直会の男が捌く桜鯛 小笠原和男
鷹飼つて痩身美髯の漢かな 井上まこと
風の中白いペンキを塗る男 富澤赤黄男
地下涼し秦の美男か兵馬俑 葉 綺
老残のこと伝はらず業平忌 能村登四郎
晴れ男先に名乗られ桜桃忌 戸垣東人
逃げ水を渡りて消えし大漢 野紗一
大男壷に納めし寒さかな 荒井浜子
寒肥やひぐまの如き大男 篠原鳳作
日盛りを無口に掃けり寺男 小松蝶二
奉教の一少年や蛇苺 加藤三七子
少年ありピカソの青のなかに病む 三橋敏雄
少年の算術しのび泣けり夏 西東三鬼
少年に蝉の森かぎりなくあをし 木下夕爾
少年の息のかかりし初氷 岸田稚魚
現れし男いきなり野火放つ 橋 關ホ
椎の花神も漢の匂ひせり 角川春樹
夏雲を濃く置く男の弁説に 中嶋秀子
花浴びの羅漢はどれも男かな 飴山 實
遠のきて男ばかりの田植かな 飯田蛇笏
下駄をはくときの男や初嵐 神蔵 器
草負うて男もどりぬ星祭 石田波郷
夕すゞみよくぞ男に生れけり 榎本基角
うかれ男の夜這の道よ蕗の薹 阿波野青畝
太藺田の方へ曲つて行く男 高野素十
雪林に男の眼あり木を挽けり 千代田葛彦
色好む我も男よ秋の暮 松瀬青々
(注:多行書き)
羅切ののちは
火も消えて
宦官にして
水帥提督
高柳重信
葭切や屋根に男が立上る 金子兜太
歯の欠けし男饒舌 一茶の忌 富澤赤黄男
男に男らしさ八方氷る木曾 宇佐美魚目
獅子を狩る男でありし前世かな 和田悟朗
模糊として男旅する薄氷 長谷川久々子
男ひとり手を洗う海にうつむいて 鈴木六林男
すすき原昔男の背の消えし 加藤三七子
白鳥に餌撒き声かけ男さみし 藤田湘子
むかし男ありけりといふ松が青く 種田山頭火
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女が笑ひ男は聞くだけの原宿梅雨 藤後左右
をとことをなごとてふてふひらひら 種田山頭火
人類に男とをんな山笑ふ 淵脇 護
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