― 諸家妙吟 ―
女 を 詠 む
牡蠣割女一人みめよき顔上げず 百合山羽公
雪ふるといひしばかりの人しづか 室生犀星
無月なり木戸をぱたんと女消ゆ 櫻井博道
混血少女海の記憶に母を抱く 寺山修司
日のもとは女も佩きぬ春の太刀 内藤鳴雪
契りきしゆゑ火影ひく雪女 石原八束
流さるるべく髪解かれ女の雛 岡本 眸
女体らしく束になって倒れてるコスモス 藤後左右
登山の荷と別に女らリンゴ持つ 津田清子
雛の軸おぼろ少女と老女寝て 原 裕
女身仏に春剥落のつづきをり 細見綾子
雪女旅人雪に埋れけり 正岡子規
スケート少女一周終へし貌あげぬ 畠山譲二
空中に女を放るスケートよ 篠永妙子
スケートの濡れ刃携へ人妻よ 鷹羽狩行
羅や女盛りはいつも今 須佐薫子
狐火をああとよろこぶ女かな 長浜 勤
有無もなく男脱がせて夜の濯ぎ 伊藤昌子
草餅を食みつをんなの情ばなし 那須淳男
乳房に ああ満月のおもたさよ 富澤赤黄男
雪解くる漏に笛吹く天女かな 阿波野青畝
女三界に家なき雪のつもりけり 鈴木真砂女
良き土に淑き女（ひと）寝かす真昼かな 金子兜太
稲を刈る夜はしらたまの女体にて 平畑静塔
香水や女の秘密すぐ洩れて 佐治英子
山が青く青く女はおしやべり 種田山頭火
一枚の瞽女の絵おもひ雪降り出す 河野友人
ろりろりと印度の少女雲を噛む 阿部完市
みづうみの青い月夜の女かまきり 野見山朱烏
鳥追ひのしんがりに蹤く雪女郎 角川春樹
膝の上が女の世界 毛糸編む 伊丹三樹彦
女らに尻の浮鴨ばかりなり 大石悦子
みじろがぬ人は女菩薩はるのくれ 林 翔
声高に女ざかりの花筵 池亀敬之助
湯女もてすりに、あれは蝦夷へゆく船 荻原井泉水
蛇行する女のままで春電車 ひらの浪子
白馬を少女瀆（けが）れて下りにけむ 西東三鬼
麦焼きの女の胸のあたりの火 高野素十
竹林に寒声つかふ女かな 有馬朗人
浮世絵の女の絵馬や生姜市 加藤三七子
諸々の女の中の雪女 相生垣瓜人
颱風圏処女（おとめ）の腿に雨衣巻きつき 小川双々子
春雷や女主に女客 星野立子
ウイグルの美女はけだるし蝿叩 山田真砂年
悲しくて濶達冬の未亡人 殿村莵絲子
尻なんど掻きつつ海女の着替かな 田代早苗
白い服で女が香水匂はせる 高屋窓秋
西鶴の女みな死ぬ夜の秋 長谷川かな女
春の夜に讀む近松の女かな 松瀬青々
稲妻やラジオの劇の女死す 鷲谷七菜子
ずぶぬれの少女を捜す海朧 佐藤鬼房
蛇いでゝすぐに女人に会ひにけり 橋本多佳子
うつぶせの寝顔をさなし雪女 眞鍋呉夫
栗鼠の尾と夏乙女森ふかく消ゆ 木下夕爾
水洟に裂くや逢ふ夜の緋縮緬 尾崎紅葉
春の灯や女は持たぬのどぼとけ 日野草城
花冷えの女ののんどうごきけり 岸田稚魚
壬生念仏美女の面に頬かむり 橋本美代子
ヨガ少女駱駝のポーズ黒い夏 田川飛旅子
くちなはの女らしきが消えゆきぬ 加藤三七子
春雨に大欠伸する美人かな 小林一茶
日覆に少女は水を滝なさしめ 石田波郷
起し絵の男を殺す女かな 中村草田男
六月の女すわれる荒莚 石田破郷
まり唄や二百を越せば男めき 前田普羅
青梅に眉あつめたる美人かな 与謝蕪村
チゝアンの女春の夕べのうしろ髪解く 河東碧梧桐
しだれざくら女の囲む中に垂る 大野林火
泳ぎ女の葛隠るまで羞ぢらひぬ 芝不器男
一家に遊女もねたり萩と月 松尾芭蕉
日蝕の このとき 女 ゆがみけり 富澤赤黄男
春泥に映り歪める女かな 松本たかし
美女にちれば愚かにうらむ桜狩 井原西鶴
つぶらなる汝が眼吻（す）はなん露の秋 飯田蛇笏
（４行書き）
香函や
王妃は
秘むる
聖免罪符
高柳重信
春の雪ふる女はまことにうつくしい 種田山頭火
桃の日や蟹は美人に笑るゝ 服部嵐雪
幻の女（ひと）とゆく夜の花八ツ手 横山白虹
明け易きよべ裾ひきし女はも 山口青邨
小説を脱け出して哭く雪女 阿波野青畝
狐火を信じ男を信ぜざる 富安風生
みな肥えて女うつくし艸の花 松瀬青々
夕立にひとり外みる女かな 榎本其角
張りとほす女の意地や藍ゆかた 杉田久女
春の夜のくつしたをぬぐ女かな 日野草城
月光のすだくにまろき女（ひと）のはだ 篠原鳳作
雪ぐもり恋持つ女の眼おそろし 岸田稚魚
遠花火人妻の手がわが肩に 寺山修司
をばさんがおめかしでゆく海贏（ばい）うつ中 山口青邨
ひとづまにゑんどうやはらかく煮えぬ 桂 信子
芋茎むく小石の原に海女坐り 宇佐美魚目
瀬に下りて目玉を洗う雪女郎 秋元不死男
ジーパンをはき半処女や秋刀魚焼く 磯貝碧蹄館
ほととぎす女はものの文秘めて 長谷川かな女
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男抱き女よそ見てパイネーラ 高野素十
男と女あなさむざむと抱き合ふものか 荻原井泉水
女を見連れの男を見て師走 高浜虚子
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