第38章 進む国語改革(1)
帰省してなん日かたった休日の午後、ナオは高校でいっしょだった3人の友だちと久しぶりに会うことになった。約束の場所へ
は電車で5つほど都心寄りの、母校のある街まで行くのだが、歩いて駅にむかう道すがら、国語改革がおもったよりもはやいスピ
ードで進んでいることを実感したのであった。
(中 略)
瀟洒(しょうしゃ)なつくりのパブ喫茶『forever』に集まった高校時代の女友だち4人は、しばらくたがいの近況を語り
あうと、やがて誰からきりだすともなしに、話題が巨人族に移ったのであった。
(中 略)
ナオは、むかいあわせで坐っている、中学教師になったばかりのチノにきいてみた。
「わたし最近、『柳句の効用』って本を読み終えたんだけど、柳句の授業ってどうやっているの? 生徒たちはとまどっていな
い?」
「うまくいってるわよ。5・7・5のリズムのせいか、みんなけっこう楽しそう」
(中 略)
「将棋は漢字なのよね」
「そうね、わたしはやれないけど」
「それにしても、せっかく親が苦心してつけた子どもたちの名前はかわいそうね。10歳以下の子は、仮名書きに戻されてしま
うんだから」
(中 略)
「あ、そう、そう。字画占いとかハンコの画数鑑定はどうなるの?」
「字画占いはこっそりやられているらしいわよ。けっこう信者はいるみたい」
「繁華街の小路裏とかで? わたしは占いを信じないから、どうなったって関係ないわ」
「あら、マイは高校時代に、手相やら血液型相性に凝ってたじゃん」
「ご卒業したのよ、それは。いまは、“演劇はどうして生まれたのか”という、最先端のガ・ク・モ・ンを勉強しているんだか
ら」
マイが〈学問〉を、わざと一音ずつ区切って発音してみせたので、どっと笑ってしまったのであった。
(中 略)
「お寺はむかしからの看板、あれ看板っていうの? 大きな一枚板に書かれた寺の名前、あれって、額に入っていたかしら。い
まもあのまま掲げられているわね」
マイがいった。
「そう、しかたがないのよね。いまさら横文字の看板にとっかえても・・って感じしない?」
「そうねえ、お寺には、なんと表現したらいいのかしら、伝統というか、古色ってものがあるわねえ」
と、チノ。
「そう。いくら改革だからっていっても、外国から他民族が侵入してきて、征服者がわの使っている言葉を無理やり押しつける
やり方とおなじようでは、お坊さんたち、反乱をおこすわよね」
ミルンがいった。
(後 略)