切れ字「や」の役目
向 井 未 来
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先述の例は2度目の切れがごく軽い場合でしたが、さらには、強い切れ字《や》が用いら
れていても、別の個所でも同等程度に再度強く切れている句もあります。
たとえば、
秋涼し手ごとにむけや瓜茄子 芭蕉
のような句です。普通、上句で「秋涼し」と置きますと、そこで切れが入ることになります。
ですからもう、中句の《や》は不要なのです。そのような形の句は、5音を成す季語を用い
つつ、そこに切れを入れてまとめるときの通常の用法でしょう。
ところが、秋涼しの句では中句の《や》が、そこでさらに強い切れを生じさせています。
切れが2ヵ所に入った結果、上句・中句・下句の3フレーズは、ばらばらなかっこうになり
ました。そしてまた芭蕉の句では、切れが2つ強く入っていてさえも、音調の滑らかさが潤
滑油となり、五七五のリズム感を保ちつつ継ぎ目のない一行詩になっています。まことに言
葉選びは、舌頭に千転させてということなのでしょう。
2ヵ所に切れが入るような形になってはいましても、やはり強い切れは《や》が担ってい
るとしなければならないでしょう。俳句は省略や形〔かた〕が重んじられる文芸ですから、
季語の本意・本情によりかかりますように、切れ字の強い効果によりかかってよいはずなの
です。形〔かた〕すなわち切れ字のもつ約束事が崩れてしまいますと、通常の叙述文になっ
ていない
語句省略の詩歌を、理解し合えなくなってしまいます。
人間の脳内では何がどのように作用して、通常の語順を成さない言葉の意味を理解する手
助けをしているのでしょうか。
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