切れ字「や」の役目
向 井 未 来
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《や》が下句に現れますのは、わずかに次の4句です。
あすは粽難波の枯葉夢なれや 芭蕉
山吹の露菜の花のかこち顔なるや 芭蕉
夏の月御油より出でて赤坂や 芭蕉
櫓の声波をうつて腸氷る夜や涙 芭蕉
当然ながら、下句に《や》が置かれますことは、強調すべき事物・事象が下句にきているこ
とを意味します。
また、疑問の助詞として下句の末尾に使用された場合などは、句意の結論が最後にきている
ということになりましょう。すなわち、《かな》《けり》などと同様に、日本語の語順に近い
叙述となるのです。そして上句・中句のフレーズはたいてい、下句の《や》の直前の、詠嘆さ
れ強調されるべき語句を修飾しているか、あるいは説明しているかになってきます。
4句のうち櫓の声の句だけは、《や》が下句末尾に置かれず中途にきているため、《や》を
はさんで二句一章の形になっています。そして、「はらわたも氷るような夜」と「涙」が対照
させられながらも、寒さ厳しい夜と涙の、双方が強調されているようでもあります。
下句に《や》が入った句は芭蕉38歳頃をもって終り、その後はなぜか、それまでは1つも
なかった《ばや》を用いる句が増えてくるのです。
なお、《ばや》を用いた句が11句、《かや》を用いた句が3句ありますが、いずれも《や》
とは別個の切れ字とみなし、数えておりません。
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福島市 = 「あづま果樹園」