切れ字「や」の役目
向 井 未 来
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中句に《や》が用いられます理由は、詠嘆や強調の対象となる事物・事象を表す語句が、句
の後方へ移動するためと考えられます。
なぜそのように後方へ移動するのかといいますと、感興を受けた事物・事象を強調しようとす
る語句が、その語句だけでは光景なり有りさまなりを充分に描ききれないとき、他の語句を補っ
て説明を加えるように修飾しなければなりません。そうしますと、《や》の前のフレーズで使わ
れる語数が増えますから、《や》は必然的に後ろのほうへ移動せざるを得なくなるからでしょう。
そのような理由からも、中句で用いられている《や》の直前の語句は、上句といっしょにきわ
めて緊密なフレーズをつくることが多いようです。前出の句の「風流のはじめ」や、「早苗とる
手もと」「藻にすだく白魚」のようにです。そのときの上句はもっぱら、《や》の直前の強調す
べき語句を修飾する役割となっています。
また、《や》が中句のほうへ下句のほうへと移動してきますと、だんだんと日本語の叙述文の
語順に近づいてきます。それとともに、詠嘆され強調されようとする語句やフレーズが、《や》
をはさんで後ろにきたりもし始めます。そんなときの《や》の前のフレーズは、《や》の後の語
やフレーズを修飾するように働きだしているようです。その原因は、《や》が後方に移るにした
がって、切れの効果のほうが薄らいでくるからと考えられます。
しかしながら、強い切れ字《や》が存在する個所で切れが入るのだという約束ごと、つまり俳
句の形〔かた〕は、あくまでも堅持されていることになりましょう。
《や》が後ろへ移るにしたがって切れ字としての力が弱まってしまうと、そのように芭蕉が感
じていたかどうかはわかりませんが、あとで触れますように、古池やの作句を境として、次第に
中句よりも上句に《や》を用いる句が多くなってくるのです。
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宮城県・鳴子温泉 = 「尿前の関」