切れ字「や」の役目
向 井 未 来
〖5〗
《や》が中句に用いられている句は141句ですが、そのうち中句の末尾に置かれる句、た
とえば、
五月雨の降りのこしてや光堂 芭蕉
くたびれて宿かるころや藤の花 芭蕉
のように、文節の区切りも五七五のリズムに沿う一般的な形の句は、83句あります。
これらの句は、《や》が上句に置かれたときと同様に《や》で前後が切られ、二句一章の姿を
とることになります。つまり、上句・中句で1つのフレーズを形成し、下句がもう1つのフレー
ズを成しています。
また、《や》が中句の中途に入る形の句は、
風流のはじめやおくの田植歌 芭蕉
早苗とる手もとや昔しのぶ摺 芭蕉
藻にすだく白魚やとらば消ぬべき 芭蕉
など58句ありました。
このような場合も、たいていは《や》の直前の語までが上句といっしょになって、たとえば、
「風流のはじめ」の句のように、しっかりと緊密な1つのフレーズを形成することになります。
そして《や》の後の語は下句とつながって、「おくの田植歌」のようにもう1つのフレーズを形
成します。そのように《や》をはさんで、はっきりとした二句一章が形づくられています。
中句の中途に切れが入る形は、音調上は五七五のリズムが守られ、1句全体は滑らかな音韻を
保っているのですが、上句のときと同じに句またがりになっています。《や》が中句に置かれて
います141句のうち、4割を少し超える58句が句またがり句ですから、けっこう多いものだ
なと感じたのでした。
芭蕉は、句またがり手法の名人でもあったと言えるかもしれません。
1 2 3 4 ← 戻る 進む → 6 7 8 9 10 11 12 13 14
北海道・斜里町 = オシンコシンの滝