切れ字「や」の役目

 

向 井 未 来

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上句に《や》が入る場合はたいがい末尾に置かれますが、中途に置かれた句が全部で6句あり

 

ました。

 

みしやその七日は墓の三日の月      芭蕉

 

いでや我よきぬの着たりせみごろも    芭蕉

 

むざんやな甲の下のきりぎりす      芭蕉

 

これや世の煤にそまらぬ古合子      芭蕉

 

月やその鉢の木の日のした面       芭蕉

 

実にや月間口千金の通り町        芭蕉

 

このように中途に置かれた《や》は、詠嘆を表すだけにとどまらず、呼びかけ・疑問などを表

 

す助詞としても使われています。またこれらの句の多くは、《や》をはさんで二句一章の形をと

 

っています。けれども《や》が上句の中途に入っているため、いわゆる句またがりという形にな

 

っています。それでも句またがりを厭わず、強調したい事物・事象の語句をいちばん前にもって

 

きておおります。《や》の直前の事物・事象を表す語をより強調するために、あえて中途に切れ

 

字を置いたと考えてよいでしょう。

 

またこれらの句は、意味内容のうえでの句またがりの不具合を、音調の滑らかさをもってうま

 

くまとめ、少しのぎくしゃく感も残らないように納めているようです。

 

たとえば、むざんやなの句は、感動を表す終助詞《な》が重ねて用いられ、そこで強く切れる

 

ようになっています。ほかの句を見ましても、音調のうえで5音のリズムがくずれないよう〈や〉

 

の音がそれぞれ絶妙な位置に配されています。上句に置かれるときの《や》は、末尾・中途の位

 

置にかかわりなく、詠嘆と強調と音調上も、じつに有効に働く切れ字だと思われます。

 

なお、上句の中途に《や》がきている句がもう1つあります。それは、

 

ゆきや砂むまより落ちよ酒の酔ひ     芭蕉

 

の句ですが、この《や》は事物・事象の列挙が目的の並立助詞ですから、切れ字としての《や》

 

が用いられている句の中には数えておりません。この句の切れは、中句に置かれました強い切れ

 

字《よ》にあることになります。

 

 

 

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大阪 = 大阪城

 

 

 

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