切れ字「や」の役目
向 井 未 来
〖14(最終章)〗
日本語は文法構造から、膠着型といわれる言語に分類されるのだそうですが、膠着型の言語
は、助詞を自由に動かせましたように切離しが可能なのだそうです。
これまで切れの有無を見分けるために、切れ字《や》を別の助詞と置き換えたり、外してみ
たりしました。そのような切離し可能な性質を活用できますことで、俳句は語句並列の詩歌で
あることがはっきりしました。
一見ばらばらに並列される語句群に、《や》という切れ字をかかわらせることによって、字
句に表れない心象を把握しようとする技術に親しむ俳句の世界。強調の語や結論を後ろへ押し
やろうとする日本語本来の力に抗するような、上句の《や》が醸し出す新鮮な趣の詩歌の世界。
結論先行の「○○や」と詠みだす形は、やはり俳句そのものを象徴していることになるのでし
ょう。
切れ字の約束事は、和歌の時代、連歌の時代から、絶えることなく伝承されてきています。
俳句世界は、その切り離しのできる日本語の特徴を大いに活かし、切れのルールを大事に守り
続けてきています。
日本語が今後も膠着型の文法構造が保たれ、結論を後ろにもってくる語順構造に変化が起こら
ないかぎり、文法構造の異なった言葉がもつ味わいは捨てがたく、「○○や」という形〔かた〕
は守りつづけられることでしょう。
〔芭蕉の発句の成案句数や作句年代は、『芭蕉俳句集』中村俊定校注(岩波文庫)
によっています。〕
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