切れ字「や」の役目
向 井 未 来
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切れ字《や》が用いられている363句のうち下句その他の句が7となりますが、「そ
の他」といいますのは、《や》が2度用いられている次の3句です。
田や麦や中にも夏のほととぎす 芭蕉
被き伏す蒲団や寒き夜やすごき 芭蕉
春やこし年や行きけん小晦日 芭蕉
このうち田や麦やの句は、1つめの《や》を単なる並列の助詞とみなし、2つめの《や》
が切れ字なのだとしますと、この句を上句に《や》が用いられているなかに加えてよいこと
になります。しかし、1つめの「田や」のほうの《や》にも切れの役割がありそうなので、
2ヶ所で《や》が使われていると考え、別分類としたのでした。
被き伏すと春やこしの句では、2つの《や》とも切れの効果というよりは係りの助詞とし
ての作用のほうが強く、句全体から見ます切れはそれぞれ、「寒き」と「すごき」、「こし」
と「けん」にあるでしょう。したがって、被き伏すの句は2回目の切れの「すごき」で句が
終結しますから問題ないのですが、春やこしの句は2ヵ所に切れがあることになるので、三
段切れの句ということになります。ちなみに春やこしの句は、芭蕉19歳の作とのことです。
また、この3句とも2ヶ所の《や》は、音調を整えるための並列・繰返しの役割を担って
いると考えられます。やはり《や》を含むフレーズは並列されて、繰返しのリズムが生かさ
れなければならなかったのでしょう。
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石川県珠洲市 = 見附島