切れ字「や」の役目

 

向 井 未 来

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俳句に独特の語句用法であります切れ字。その代表的な《や・かな・けり》。

 

俳句をやらない人でも、「うん、1句できた! ○○や」などと冗談をとばし、話の場をもり

 

あげることがあります。また、俳句をはじめて間もない人の句の中には、うっかり《や》と《か

 

な》か《けり》とが同時に使われてしまっている、などとはよく耳にする話です。

 

いずれにしろ《や》《かな》《けり》は、俳句を連想させる言葉だと思いますし、特に《や》

 

と《かな》は、俳句そのものを象徴しているような気さえしてきます。

 

《や》と《かな》は詠嘆を表す場合が多いでしょう。《や》と《かな》の音韻をみますと、

 

「や」「か」「な」とも母音「あ」で終わるようになっています。「嗚呼(ああ)」とは、驚き、

 

嘆き、喜び、呼びかけ、返事の語とされていますが、母音「あ」音は、人間の生理的な詠嘆発声

 

音なのでしょうか。

 

《や》は俳句では、上句・中句・下句のいずれにも用いられます。しかし圧倒的に上句に多く、

 

辞書にも「間投助詞〈や〉は、詠嘆や呼びかけを表し、和歌、俳句では上句に添え、音調を整え

 

る」などとあります。

 

《かな》と《けり》は、たいがい下句の末尾に据えられます。日常会話にしろ文章にしろ、結

 

論が後にくる日本語の語順からすれば、日本語にかなった位置にきているということになります。

 

《けり》は断言するような強い調子に感じられます。それは《けり》が、過去を表す助動詞だ

 

からかもしれません。過去の事実を断定的に表すという、そういった強さなのでしょう。《けり》

 

の音韻構成母音は「え」と「い」です。

 

俳誌『あざみ』平成18年10月号・11月号掲載

 

 

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