自 選 100句

                   向 井 未 来

 

 

蟻の列始め終りのなかりけり (1989年11月 俳誌「新雪」掲載)

 

 

寄居虫の捨てし空き家に海の垢 (1999年7月 俳誌「天為」掲載)

 

 

星の()て天文学を(ひら)かしむ (2000年3月 俳誌「あざみ」掲載)

 

 

かたまつて何すでもなし残る鴨 (1996年5月 俳誌「新雪」掲載)

 

 

啓蟄や都に埋もる杭の数 (1996年4月「秋田地区現俳協俳句大会」応募句)

 

 

古酒酌めば百案生まる夜の雨 (2001年1月 俳誌「天為」掲載)

 

 

蜩や校舎にかかる山の影 (2001年1月 俳誌「あざみ」掲載)

 

 

シャボン玉叫びとともに破れけり (1994年7月 俳誌「新雪」掲載)

 

 

齢もて春泥跨ぐ軽さかな(1995年5月羽黒町俳句大会」応募句)

 

 

爆音や蟹が踏ばる磯がしら (1997年9月「土田竹童顕彰大会」応募句)

 

 

草餅や流儀の同じ一ケ村 (1999年7月 俳誌「あざみ」掲載)

 

 

お寝釈迦の薄目をあけてをられけり (1995年8月「俳人協会東北大会」応募句)

 

 

鯉どちの一かたまりの冬支度 (1999年2月 俳誌「天為」掲載)

 

 

〔前書き:満月をじつと見居れば〕

月の杵動きて(くう)のほの揺るる (1995年版「秋田県俳句懇話会自選句集」掲載)

 

 

女にも口髭ほしき良夜かな (1999年版「秋田県俳句懇話会自選句集」掲載)

 

 

花筏いよよ早瀬へ尺足らず (1994年7月 俳誌「新雪」掲載)

 

 

昔ここ干満珠寺(かんまんじゅじ)に春の潮 (1999年7月 俳誌「天為」掲載)

 

 

あやしげな茸を聞きに持ち回る (2000年1月 俳誌「天為」掲載)

 

 

よき淵を替へぬ河童や水輪浮く (1998年版「秋田県俳句版懇話会自選句集」掲載)

 

 

読みさしの栞を抜きて初読す (1986年3月 俳誌「新雪」掲載)

 

 

石は捨て蚯蚓は戻す移植かな (1984年9月 俳誌「新雪」掲載)

 

 

足跡を消しに戻るか雪男 (1994年3月「春雷15周年記念大会」応募句)

 

 

耕せば地球ふくらむ日和かな (1999年9月 俳誌「あざみ」掲載)

 

 

亀鳴くや眠りの浅き城下町 (2000年8月 俳誌「天為」掲載)

 

 

見つむれば一砂動く蟻地獄 (1993年11月 俳誌「新雪」掲載)

 

 

名月や(けだ)し山門禁葷酒 (1997年12月 俳誌「天為」掲載)

 

 

春一番地軸はいつも首傾げ (1999年7月 俳誌「あざみ」掲載)

 

 

闇に手を叩けば耳へ鳴く蚊かな (1993年11月 俳誌「新雪」掲載)

 

 

風船をキュッキュと鳴かせ喜ぶ() (20013年6月 俳誌「天為」掲載)

 

 

濡れたシャツ濡れた髪にて虹を見し (1984年9月 俳誌「新雪」掲載)

 

 

蜘蛛の巣や鎖()びたる石の壁 (1996年10月 俳誌「新雪」50年記念大会応募句)

 

 

羅の女同士がすれ違ふ (1987年9月 俳誌「新雪」掲載)

 

 

子らは言ふ(つの)ありてこそ甲虫 (1986年9月 俳誌「新雪」掲載)

 

 

雪代の海へ押し出す力かな (2001年6月 俳誌「天為」掲載)

 

 

雁風呂や湯加減を問ふ声の主 (2000年7月 俳誌「あざみ」掲載)

 

 

今年また担ぎ出されて案山子翁 (2000年1月 俳誌「あざみ」掲載)

 

 

遠足の手足が揃ひ出発す (1996年7月「秋田県俳句懇話会俳句大会」応募句)

 

 

蜂の巣を遠巻きにして男ども (1986年9月 俳誌「新雪」掲載)

 

 

夕凪を港へ帰す小船かな (1991年9月「土田竹童顕彰俳句大会」応募句)

 

 

秋天や(ふか)()の里の天守閣 (2001年1月 俳誌「天為」掲載)

 

 

流氷の下にクリオネ底に鱈 (2001年5月 俳誌「天為」掲載)

 

 

じゆくじゆくと大樹煮ゆるか蝉の国 (1994年9月「秋田県俳句懇話会記念大会」応募句

 

 

羽抜軍鶏(しゃも)ドン・キホーテと徒名つき (1996年8月「象潟町俳句大会」応募句)

 

 

一頻り目で食ぶ間合ひ夏料理 (1996年8月「象潟町俳句大会」応募句)

 

 

水門で分けられてゆく春の水 (1998年6月 俳誌「天為」掲載)

 

 

(たれ)の死を誰に告ぐるや星流る (1985年版「秋田県俳句懇話会」自選句集掲載)

 

 

鼻先の涼しげに巫女通り過ぐ (1997年10月 俳誌「天為」掲載)

 

 

しやぼん玉吹くとき寄する写楽の目 (2001年8月 俳誌「天為」掲載)

 

 

ぼうたんに一花の重みほどの風 (1997年7月「NHK中部地区俳句大会」応募句)

 

 

狐狸の貌揚がらば揚がれ芒原 (2001年2月 俳誌「天為」掲載)

 

 

秋のもの出揃ひにける朝の市 (1993年2月 自費出版句集『自分の星』掲載

 

 

なまはげの子のすやすやと母の膝 (1994年 俳誌「新雪」新年会出句)

 

 

ふるさとの蓮の花咲き父母祖父母 (1997年11月 俳誌「天為」掲載)

 

 

觔斗雲らしき一すぢ秋の天 (2000年1月 俳誌「あざみ」掲載)

 

 

空蝉の目玉の透けてゐたりけり (1998年12月 俳誌「天為」掲載)

 

 

水澄むや稲束運ぶ橋の上 (2001年12月 俳誌「天為」掲載)

 

 

手に近きものが読初め鳥図鑑 (1997年1月 俳誌「新雪」新年会出句)

 

 

フラクタル模様となりし心太 (1999年8月 俳誌「天為」掲載)

 

 

星空や路地に()古りしちちろ鳴き (1992年12月「子規来荘記念俳句大会」応募句)

 

 

青饅や奥羽の山は雪残し (1999年6月 俳誌「天為」掲載)

 

 

また靴の小さくなりて卒業す (1985年5月 俳誌「新雪」掲載)

 

 

蟻嘗めてチンパンジーの小枝かな (1999年10月 俳誌「天為」掲載)

 

 

舫ひ場の杭深々と水の澄む (2001年12月 俳誌「天為」掲載)

 

 

稲妻やビルの根方にポリペール (1993年2月 自費出版句集『自分の星』掲載)

 

 

秋の浜遠くに一人もう一人 (1989年11月 俳誌「新雪」掲載)

 

 

宵宮や()く子に合はす早夕餉 (1999年8月 俳誌「天為」掲載)

 

 

サーカスの天幕たたむ晩夏かな (1999年11月 俳誌「天為」掲載)

 

 

菜飯食ぶ山から海へ風吹く日 (1999年6月 俳誌「天為」掲載)

 

 

歓声のしぶきを上げて夕立(ゆだち)来る (2000年8月「象潟町俳句大会」応募句)

 

 

母の日や冬虫夏草のやうな絵も (2000年8月 俳誌「天為」掲載)

 

 

荒浜の流木増ゆる師走かな (1996年3月 俳誌「新雪」掲載)

 

 

土迷ひあらぬ方指し蚯蚓這ふ (1985年版「秋田県俳句懇話会自選句集」掲載)

 

 

夕月夜背の児をあやす橋の上 (1996年11月「遊佐町俳句大会」応募句)

 

 

珍しくへのへのもへじの案山子あり (1993年2月 自費出版句集『自分の星』掲載)

 

 

炎天や用事を足しに人歩く (2012年11月 俳誌「天為」掲載)

 

 

望郷の山の切株神の留守 (1998年2月 俳誌「天為」掲載)

 

 

夕凪の水面切り裂く鉄の船 (1995年11月 俳誌「新雪」掲載)

 

 

人の居ぬ畑で笑ふ夜の西瓜 (2000年1月 俳誌「あざみ」掲載)

 

 

どんよりと秋らしからず暇かこつ (1987年11月 俳誌「新雪」掲載)

 

 

試験所のシャーレに育つ黴の花 (2001年9月 俳誌「天為」掲載)

 

 

寓居をば出て界隈の初景色 (1998年4月 俳誌「天為」掲載)

 

 

夕立や出るの居るのと夫婦連れ (1991年8月「象潟町俳句大会」応募句)

 

 

皆の寝て銀漢低し峡の里 (1996年11月「遊佐町俳句大会」応募句)

 

 

香水の乗り換はつたる御茶ノ水 (1997年10月 俳誌「天為」掲載)

 

 

猿酒や村の議事棟新しき (1998年2月 俳誌「天為」掲載)

 

 

野遊びの一日暮れし親子かな (1999年7月「秋田県俳句懇話会俳句大会」応募句)

 

 

重力や尺蠖もどる竿の先 (1998年9月 俳誌「天為」掲載)

 

 

春暁の半月残る船出かな (1993年7月「秋田県俳句懇話会俳句大会」応募句)

 

 

盆の僧()()()むにやむにや経終へる (1992年版「秋田県俳句懇話会」自選句集

 

 

花人の目もと足もと宙にあり (1990年7月 俳誌「新雪」掲載)

 

 

風吹いて凧糸つよし土手の上 (1993年5月 俳誌「新雪」掲載新雪)

 

 

石あれば坐りてもみる九月かな (1999年1月 俳誌「あざみ」掲載)

 

 

なまはげを数ふに一匹二匹とな (2000年4月 俳誌「天為」掲載)

 

 

蜩や日矢幾すぢも杉木立 (1998年11月 俳誌「天為」掲載)

 

 

水嵩や影折れ映る猫柳 (1993年7月 俳誌「新雪」掲載)

 

 

威銃あらずもがなの撃ち損じ (1998年1月 俳誌「天為」掲載)

 

 

晦渋の大著を抱へ冬籠り (1997年2月 「NHK俳句四国大会」応募句)

 

 

峡の田は水の流れに沿ひて打つ (1998年6月 俳誌「天為」掲載)

 

 

揚げ舟の並びて浜の冬来たる (1986年3月 俳誌「新雪」掲載)

 

 

狛犬のふと摩り替はる去年今年 (2000年版「秋田県俳句懇話会自選句集」掲載)

 

 

 

 

 

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