片仮名のコトバ(1)

 

最近、新聞や雑誌を見ていて、片仮名の語が多くなったことに驚かされる。すぐに意味のわかるものもあるが、そう

でないものもある。新しく出はじめた片仮名は、新聞などではカッコ書きにして、本来の日本語(?)に訳してくれてあ

るので助かる。が、一般化されたものはカッコ書きの親切さを伴わないから、たいへん困惑する。

一般化された片仮名とは、日常ひんぱんに使用されている語のことだが、あるいは、私ひとりだけ知らないでいるの

かもしれない。

ニーズ、ソース、ロット、リースなどの言葉は、現在ではわかるのだが、使われ始めたころの私には意味がよくわか

らなかった。前後の文章から判断して適宜推量し、自分自身に納得させていた。何度も何度も同じ片仮名に出くわ

しているうち、前後の文面から判断し、自分なりに納得する。そのうちに、たまたまその単語の意味を解説している

「書き物」にめぐり合うと、「やはり自分の推量は当たっていたのだ」と安心するのである。

しかし、ニーズ、ソース、ロットなどの語は、たぶん過去に、まぎれもなく学校の英語の時間に、習っていたかもしれな

い。ところが、とっくに忘れてしまっている。で、片仮名に変身して10幾年ぶりかに目前に出現すると、ハタととまどう。

忙しがらずに辞書を開けば済むことだが、かつての座右の書的英和辞典は今では・・・・。片仮名の大半は英語に

違いなく、発音どおり片仮名に直したものであろうが、辞典をいちいちひもとく気にならなくなってから相当の年月が

経ている。ニーズ、ロットなどの語もいちいち調べたことはなかった。

ビジネス(仕事)、オートメイション(自動制御)、コンピュータ(電子計算機)、エスカレート(激化)などの語は、繰り返

し繰り返し使用される言葉であり、もはや日本語を用いるより片仮名を使われたほうがわかり易くなっている。アルバ

イト、ベースアップ、ボーナスなどの語もそうである。

しかし、よく考えてみると片仮名がはびこり出したのは、ごく最近のことでもないように思う。いつ頃から使われ始め

たかは知らないが、完全に日常化した語は数多い。ラッシュ、ブーム、アイドル、レジャー、キャッシュ、・・・エトセトラ。

近ごろ定着した、または定着し始めた言葉としては、アピール、シビア、バイコロジー、ウーマンパワー、オリエンテ

ーリング、フィーリングなどがある。数えれば限りがないし、すぐには思い出せない語も相当ある。

一般的でない片仮名、つまり、それぞれ専門の分野で専門家が使う片仮名に至っては無数であろう。スポーツ用語、

自動車部品名などは一種の専門用語ではあるが、一般化されていて、中には私たちにもすぐわかる語もある。自動

車部品に例をとれば、ハンドル、ブレーキ、ライト、ウィンカー、そしてリクライニングシート・・・。

いったい、片仮名の氾濫はどこまで続くのか。現在が最盛期か、これからもっともっと外国語が入ってきて、片仮名

に置き換えられる時代が続くのか。私にはもちろんわからないし、たぶん、誰にも予測しえないことだろう。

なるほど、機会があって戦前に創られた法律をたまたま読むことがあると、みな漢字と片仮名だけで組み立てられ

ている。だが、日本語を片仮名に置き換えただけだから、読みにくいけれども意味はわかる。外国語が片仮名に置

き換えられた場合は事情が違ってくる。長年、学校で習いつづけた英語が片仮名に置き換わるのはまだいいが、フ

ランス語、ドイツ語、イタリア語などが混じってくると、英和辞典を引いても通じない。いきおい、その単語の意味を解

説している「書き物」にめぐり合うまで、待つことになる。だが、プラザ、サウナ、アルバイト、マンションなどは、どこの

国から来た言葉か調べたこともないが、解説書にめぐり合う必要がないまでに一般化されてしまっている。

片仮名と漢字の混成語も数多い。フル操業、賃金カット、レインジャー部隊など。ポスト三木、八郎潟ハイツなどの使

い方もある。省略されたものとしては、オートメ(オートメーション)、エレキ(エレキテルか? 電気仕掛けのギターは、

エレキ・ギターとも。)、ベア(ベースアップ)、カドミ(カドミウム)汚染米などがある。

片仮名に劣らず、横文字が頭文字だけを並べて「生(なま)」で使われる場合も多い。PPMが登場した頃から盛んに

なったのではなかろうか。以下、縦書きにするが古典的ものでは、PPM以前からWC(便所)、NHK(日本放送協会)、

OL(女子事務員)、OB(男子の:卒業生、先輩、出身者か?)、Rhマイナス(血液型の分類)、H(エッチ)などがある。

IOC、PCB、EC(あるいはEEC)なども新聞紙上を飾る。私が最近覚えたものにUFO(未確認飛行物体つまり空飛

ぶ円盤)、FX(次期主力戦闘機)などがある。FM放送、テレビのUHFなどはきわめて一般化されている。

片仮名や横文字の氾濫がいつまで続くかはともかくとして、ひんぱんに使われ出した原因は私なりに推察がつく。そ

れは、世界各国との交流が盛んになったことが主因であろう。圧倒的に英語から出た片仮名が多いのは、英語が世

界の共通語となったせいだろう。

日本経済が高度成長の時代、商社マンはメイドインジャパン商品をどんどん売り込みに出かけ、年間幾十人もの観

光客が外国を見聞した。かくて、エコノミックアニマルという片仮名が生れた。日本へも、貿易の自由化が進むにつ

れて舶来品が入り込む。日本と外国との会社間で技術提携が盛んに行われるようになり、ノウハウという語が一般

化する。日本へ外国の資本が入ってきて合弁会社が出来、社名に片仮名が混じる。外国の会社が日本に支社を構

え、片仮名の看板を掲げる。オイルショック関係に例をとれば、エッソ、シェルなど。そして、社名ではないが、メジャ

ーという片仮名が悪名をとどろかせた。

最近、外国系資本が全く入っていない純粋の日本株式会社さえ社名変更し、片仮名にするところがふえている。昔か

らのソニーを代表に、ダイハツ、トヨタ、ニッサン、セイコー、東洋レイヨン、富士ゼロックスなどなど。しかし、これらの

中には登記上は正式な名称でない会社もあるかもしれないが・・・・。

ところで私は、片仮名使用の推進論者とまではゆかぬが、反対する者ではない。むしろ、片仮名を用いることが好ま

しいのではないか、と考えている。横文字の頭文字だけを並べたものはあまりひんぱんに使われては困ると思うが、

片仮名に関しては、漢字が氾濫するよりはずっと好ましいと考える。

何故かというと、つまり、外国語とくに英語を学ぶ時間がはぶける。その分、新しい物ごとを造り出す時間に廻せる、

ということになりそうなのだ。大学受験のために必死で英和辞典に手あかを付ける時間が、片仮名の言葉に慣れる

ことによって短縮できそうなのである。

私たちは子供の頃、キャラメルやチョレートをなめ、アイスキャンデーをしゃぶり、ベースボールに興じたものだ。

今の子どもたち、それから、仮に今後ますます片仮名が全盛期に入るとして、今後産まれて来る子どもたちは、私た

ち以上に片仮名になじんで育つことになるだろう。今の子どもたちは、満1歳頃からテレビのアニメーションに興味を

示し、やがて、ウルトラマン、ゲッターロボ、電人ザボーガなど片仮名の超人に夢中になり、サッカーをやるようになり、

コーラを飲むだろう。

これらの片仮名の語は、正確な発音と綴り(スペル)を学べば、労少なくして英語をマスター出来そうな気がするので

ある。私の片仮名効用論は、突飛すぎるだろうか。

(1975年12月 記)

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