キメラ、その愛

(メギドとキメラの記憶を記憶しつづけるすべての者のために。)

 

(影姫・作)

(↑王女キメラ肖像画↑)

 

 『科学戦隊ダイナマン』もいよいよ大詰め、カー将軍はアトンに粛清され、ゼノビアは白骨化し、アトンはダークナイトに倒された。そしてジャシンカに新帝王メギドが誕生した。その夜、グランギズモでは? 

 

 グランギズモの大広間ではシッポ兵たちが新しく誕生した新帝王メギドと新女王キメラのために惜しみない拍手を贈っていた。飛び上がり舞い落ちるさまざまな色のテープ、そしてシッポ兵たちの祝福の歌声。

 「ええい、、、!シッポ兵ども、静まれ!明日はダイナマンとの最終決戦ぞ!!このように戯れごとにうつつを抜かしている場合ではないわ!」メギドの檄が大広間に飛んだ。一瞬ののちにたちまち静まるシッポ兵たち。キメラがメギドを抑える。
 「帝王メギドさま、もしかしたら明日はかなく散りゆくかもしれぬ、われらジャシンカの運命、それゆえ今宵だけでもこの者たちにお慰めをお与えくださいませ。」
 「甘いぞ、キメラ!そのような甘さではダイナマンには勝てぬ!俺はアトンのように甘くはないわ!ええい!どけ!どけい!出る!」マントを翻し、大広間から出るメギド、その姿をシッポ兵とキメラ、そして最後の進化獣であるファイアースフィンクスたちが沈黙しながら見守っていた。

 メギドの私室。メギドはジャシンカでは最高級と呼ばれる高級酒、「ジャシンカーラ」を入ったグラスを傾けながらソファーに横たわっていた。その時、コツコツとドアが鳴る。「入れ!」メギドは鋭く叫んだ。
 「メギドさま、新女王、キメラでございます。」
 「なんだ!明日は最終決戦だぞ・・・、早く寝ろ。・・・」
 「お話したいことがあって参りました。」キメラの神妙な口調にさすがのメギドも荒げた口調を和らげた。キメラはメギドの座っているベッドに近づき、片方の膝を折り曲げた姿勢で跪き、そして言った。
 「実は、わが父、カーの遺言をお伝えに参りました。」
 メギドは仰天した。カー将軍といえばメギドにとって武術・知育その他すべての師である。たちまちメギドはベットから起き上がり姿勢を正した。
 「なんと!カー将軍の遺言だと!、、、そんなものがあったのか。」・・・メギドが絶句している間にもキメラは話を続けた。
 「わが父、カーは軍師とはいえもともとジャシンカ古文学を研究していた文人、戦いを好む者ではございません。それゆえ先代帝王であるアトンさまとは意見が衝突しておりました。」
 「うむ・・・そのような話、、、以前父上から聞いたことがある。・・・アトンは人間どもを武力で制圧しようとしていた。しかしカー将軍のお考えは違っていたようだな。」
 キメラが言葉を続ける。「それ故、カーは人間と有尾人との共生の道を模索しておられました。わたしは幼い時分に父から聞いております。わたしの名の本当の由来を。」
 「なんと!それはもしや!?」メギドが激昂した。
 「さよう、わたしの名の本当の意味、それは文字どおり人間と有尾人との間の「キメラ(複数の種の細胞が混在する生物のこと)」として生きろ、、、そのような意味でございます。」

 メギドがグラスがをポトリと落とした。たちまち落下するグラス、散乱するジャシンカーラの紅い飛沫。

 キメラが言葉を続ける。「メギドさま、このわたしの名に免じてもうわれらジャシンカは戦いを止めるときがきているものと覚えくださいませ。」メギドが震えだした。「う。。。うるさい!新女王とはいえあまりに分を超えた発言!許されんぞ!」
 「本当に許されませんか・・・?」
 「当然だ!」
 「なれば・・・」キメラが光沢のある紅いコスチュームの胸を開けた。形の良い乳房が踊りでる。
 「なれば、、、今宵、明日死ぬかもしれぬ運命のわれらふたり、契りの儀をいたしましょう。」
 メギドは絶句した。いかに新帝王に納まったとはいえ、まだまだ王族の青二歳である。メギドは言葉がでない。キメラがはスカート部分のコスチュームを外す。そして頭部の角状の冠をパチリと外した。今、生まれたままの姿となったキメラはそのままメギドをベッドに押し倒した。

 「キ・・・キメ・・・ラ・・・うぐ・・・・」

 メギドのうめき声と共に部屋の明かりが消えた。そして暗転。

 

 

 

※                 ※

 

 

 

 

「スーパーダイナマイト!!」

 ダイナマンたち五人の激と共にファイアースフィンクスの身体が砕け散った。シッポ兵たちももう5・6人しか残っていない。キメラが叫ぶ。「新帝王、、、いやメギド、、、!!グランギズモにお戻りください!!もはや危険です!」 

 「お・・・おのれ・・・ダイナマン、、、」
 メギドがダイナレッドとの決戦で折られた帝王剣を投げ捨てながら叫ぶ。

 「キ・・・キメラ!一時撤退ぞ!!ついてこい!!」

 グランギズモの大広間に戻ったメギドとキメラ、しかしダイナロボの執拗な追撃がつづく。
 メギドは壁にもたれかかって呟いた。「やはり無理だったか。この俺がジャシンカを継ぐなど。アトンに比べても俺は所詮三流の帝王よ。。。」メギドは自分を嘲った。結局ダイナマンに勝てなかった自分とそして自分の代ではかなく潰えるジャシンカの運命を。
 グランギズモが揺れる。

 その時、キメラが叫んだ!「ば・・・馬鹿者!それでも新帝王か!?メギド!なんという情けなや・・・」
 「ふふ、、、その強気さ、それでこそキメラ、俺が見込んだ女よ。・・・キメラ、おまえは脱出しろ。そして人間たちの社会に紛れてくらすのだ。ジャシンカ王家の血を絶やさぬ方法はもはやそれしかない。」

 キメラはじっと立ち尽くしている。メギドの檄が飛ぶ。「往けい!そしておまえはおまえの新たな人生を歩め!文字通り人間と有尾人の間の『キメラ』として!」

 「御意。」
 メギドの眼にはその時、キメラがなぜか不思議に微笑んだかのように見えた。
 次の瞬間、キメラは腰の短刀を抜いた。そして自分の尻に手を回すとグイと尻尾を掴む。短刀が一閃する。ボトリと落ちるキメラの尻尾、鮮血が飛び散る。、

 ダイナロボが必殺技を放った!
 
 (ガガガガーーーーーーーーーーーン!!)

 爆発炎上するグランギズモ、ジャシンカ最後の砦はこうして堕ちた。・・・

 

 

 

 「こうしてジャシンカは滅んだのでございます。しかしジャシンカ帝国の血筋はこのわたしが引き継ぎました。わが夫メギドの記憶と共に。え?・・・わたしが誰でございますかって?ハイ。もう五十路に入りました平凡な主婦、香野魔里でございます。今やわたしもふたりの子持ちでございます。さてさて今宵の御伽はもうおしまいでございます。皿洗いの仕事が残っておりますゆえ。少々お尻の傷がいまでも痛みますが。え?今のわたしの隣にいる男性は誰ですかって?ふふ。イヤですねえ。旦那ですよ。旦那。もっとも決して「夫」ではございませんが。それではみなさん、では。」

 

 

 もし君がジャシンカの記憶を維持しつづけるならば今も君の心にはあの颯爽としたカー将軍がいる。その横で悪巧みしているゼノビアがいる。そして大声で命令するアトンがいる。作戦の失敗にいつも頭を垂れるメギドがいる。
 そして、。あの紅いコスチュームのキメラがいる。

 君の若き日々のほろにがく、それでいてあまやかな記憶とともに。

 ジャシンカ帝国よ。初期戦隊シリーズのなかでも敢然と光り輝く悪の組織、ジャシンカ帝国に栄光あれ!!