侵略!イカ息子

(ハムちゃま作)

2010年12月15日

 

 

 T

 その場所は神奈川県生田緑地であった。
 暗雲の中から閃光が走る。
 (どどどどーーーーん・・・)大地を揺るがすような雷鳴が緑地内に鳴り響いた。
 その瞬間。・・・おお!見よ!!地の底からむくむくと起き上がってくる妖しの者、その名もイカデビルJr!!

 一号ライダーに倒されたイカデビルの細胞のひとつが異常な増殖を繰り返した結果、誕生した魔界のガン細胞!!それがイカデビルJrだ。

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 イカデビルJrがまるで金属を擦り合わせたような耳障りな声で言った。「うおぐるるる・・・今は2010年か。ちょうど良い。ちょうどな。・・・2010年の日本人に恐怖と絶望をたっぷりと味あわせてやる!そのためにわたしは地獄の底から這い上がってきたのだ!
 人間よ!打ち震えるがいい・・・キング・オブ・クラーケンの大いなる降臨に!!」

 イカデビルはそこまで言い終わるとハアハアと息をして周りを見渡した。案の定誰もいない。「こんなところで吼えていてもしようがないか。」イカデビルJrはトコトコと生田緑地を歩いて下りだした。公園のようになっている場所を通りぬけてコンクリートの道路のある商店街までたどり着いた。
 
 さて・・・
 どうしたものか。
 ここで「作戦」を開始するか。
 ・・・イカデビルJrは商店街を見回した。とすると目の前に「小田急線登戸駅」がある。
 イカデビルJr「駅か。悪くない。この駅から人間どもの根拠地に行ってから「作戦」を開始するか。・・・」
 イカデビルJrは死神博士の遺産である小銭をポケットから出して「新宿」までの切符を買った。
 駅員が眠そうな目でこっちを見ている。
 駅員「ああ、コスプレか。・・・」眠そうな目の駅員に切符を切ってもらうとイカデビルJrはちょうど良く入ってきた新宿行き急行列車に飛び乗った。

 イカデビルJrはどっしりと席に腰を下ろすとポケットから小瓶を取り出した。
 「ふふ・・・これを見よ!!これは悪魔の劇薬「ダイオキシン」!!1グラムで100万人を殺すという猛毒だ!これを貯水池の中に投げ込むのだ。ショっカーの最高幹部・死神博士の末裔であるわたしならではの作戦よ!!
 そしてもたらされるであろう。阿鼻叫喚の地獄が!!!」

 そこでふとイカデビルJrは言葉を止めた。
 イカデビルJrは隣に座っている買い物帰りのおばちゃんに声をかけてみた。「あの。。。貯水池ってどこにあるんですか?」
 おばちゃんがガラガラした声で答える。「貯水池ねえ。最近見ないわねえ・・・」。
 イカデビルJrは恐縮して頭をかいた。「えらい、スンマセン。」

 そんなことをやっているうちに小田急線は新宿駅に止まった。電車から降りるイカデビルJr。
 駅員がニヤニヤしながらイカデビルJrを見ている。
 「あなた、コスプレするなら秋葉原行ったほうがいいよ。・・・」
 イカデビルJrが吼えた。「秋葉原!!そこが人間の根拠地に違いない。恐らく貯水池もそこにあるだろう。ふふ。」

 イカデビルJrが駅員に尋ねる。「あの秋葉原へ行くにはどうやって行くんですか?」駅員「秋葉原は総武線。JRに乗り換えるの。」

 イカデビルJrはトコトコと小田急線改札口から出てJR切符売り場へ歩いていく。JRの切符を買うと改札へ入り総武線に乗り込んだ。

 「み・て・ろ!!もうすぐだ。もうすぐ来るのだ「地獄」が。この世界に!!それをもたらすのが死神博士の末裔であるこのわたしなのだ。」

 代々木・・・市ヶ谷・・・水道橋・・・総武線は唸りをあげて次々と駅を通りすぎてゆく。しかし意外と新宿から秋葉原までは距離があるのであった。イカデビルJrはだんだんと立っているのが苦痛になってきた。しかし座席はほぼ満席。イカデビルJrは「優先席」に座ることにした。

 イカデビルJrがつぶやく「ふふ・・・優先席とはな。ショっカーのプリンスであるこのわたしを優先して座らせようとするとは2010年の人間どもはなかなか心がけが良いではないか!」
 そう考えるとイカデビルJrはちょっぴり人間がいとおしくなった。こんな孤独なわたしに優先席を与えてくれるなんて・・・



 U

 そこでイカデビルJrは気を取り直した。
 「いかん!!わたしはショッカーの最高幹部・死神博士の末裔!人間どもへの「復讐」を果たさねばならん!弱気になっている場合ではない!」

 やがて総武線は秋葉原駅に止まる。
 イカデビルJrは電気街口から駅の外へ出た。
 するとそこは歩行者天国!ありとあらゆる種類のコスプレの人間がひしめいている。 「なのは」のフェイトやら、「FF7」のクラウドやら、「ガンダムOO」のロックオンやら、ハルヒ、こなた、平沢唯・・・。

 その誰もがイカデビルJrの目には「怪人」に見えた。なぜ「怪人」ばかりがこんなに一杯・・・? 

 「ここはもしかして怪人たちの天国なのか・・・?」イカデビルJrはその考えを振り払った。「バカな!わたしは人間たちを絶滅させるために地獄から甦ってきた悪魔の使者だ!間違っても天国にこられるわけがない!」
 その時、仮面ライダーオーズのコスプレをした人間が脇を通り過ぎた。
 さッ!と身をかわすイカデビルJr。

 「・・・やはりな。2010年になっても仮面ライダーが存在しているとは。やはりここは天国などではない!人間の世界に決まっておる。」
 「ええい!もう貯水池でなくてもかまわん!今、ダイオキシンを撒いてやる。空中散布だ!」イカデビルJrはふところからダイオキシンを取り出した。

 その時。

 「仲間ぢゃなイカ。」イカデビルJrに声をかけてきた者がいる。「なにやつ!」イカデビルJrが振り向くとそこには身体から触手の生えた少女がぼんやり立っている。

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 「な、なんだ!?おまえは!?」イカデビルJrがおそるおそる尋ねる。少女がぼんやりした声で答えた。「イカ娘だゲソ。コラボしてほしいゲソ。」
 イカデビルJr「コ・・・コラボ・・・?」イカ娘「一緒に写真撮ってほしいんだゲソ。」
 「まあ・・・いいだろう。写真ぐらいならばな。」イカデビルJrはイカ娘と一緒に通行人に写真を撮ってもらった。

 満足そうなイカ娘。「同じイカ同士だから仲良くしようぢゃなイカ。」思いもかけずイカ娘に愛情をかけられたイカデビルJrの心が揺らぎ始めた。

 「やはりダイオキシンを空中散布するのは止めておこうか。・・・」

 イカ娘が歩きだした。「こっちくるゲソ。」イカデビルJrはのそのそとイカ娘の後をついてゆく。「こやつ、なにやつ・・・ショッカーとは違う他の悪の組織の怪人か・・・?」

 「おい、わたしをどこに連れて行く気だ?・・・」イカデビルJrはおそるおそるイカ娘に声をかけた。
 イカ娘「メイド喫茶で一休みだゲソ。」




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 「メイド喫茶!?だと!」イカデビルJrは困惑した。
 メイドといえば使用人のこと、使用人のいる喫茶店とはあまりにあたりまえの存在ではないか!!

 やがてイカ娘はビルの一室に入ってゆく。入り口には「ヤットコホーム」という看板がかかっている。
 たちまち大きな声がイカ娘とイカデビルJrに浴びせられた。

 「お帰りなさいませ!!お嬢様、ご主人様!!」・・・ご主人様だと・・・わかっているではないか。死神博士の血をひくプリンス・オブ・ショッカーのこのわたしの地位というものを。・・・
 イカデビルJrはますますダイオキシンのことを忘れてゆく。
 メイドたちに囲まれ、ちやほやされるイカデビルJr。

 メイドA「萌え〜萌え〜」
 メイドB「オムレツにケチャップでなんと書きますか?」
 イカ娘がポンとイカデビルJrの肩を叩いた。イカ娘がしんみりとつぶやく。「わたしも最初は「侵略」に来たんだゲソ。でもアキバの楽しさに比べたら「侵略」なんてめんどくさいだけだゲソ。
 自分に素直になるんだゲソ。人生楽しんだほうが勝ちだゲソ。一緒にアキバで暮らそうぢゃなイカ。」

 イカデビルJrはぼんやりと言った「それもよいかもしれぬな。」イカデビルJrはもう完全にダイオキシンのことは忘れていた。

 メイドたちに囲まれ、イカ娘という生涯最良の伴侶を得たイカデビルJrには、もう昔のハングリー精神は無かった。
 いたって気の良い怪人キャラになりさがっていたのだ。

 イカデビルJrが吼えた。「うおー!!死神博士の末裔よりアキバの人気者のほうが楽しいわい!!」

 こうしてイカデビルJrはダイオキシンをトイレに流してメイド喫茶「ヤットコホーム」の客寄せパンダとして幸福な一生を過ごしましたとさ。 

(了) 

 

 

(ハムちゃま&黒猫館&黒猫館館長)