【中東紀行 24】塩の湖トゥズ湖 

 

 アンカラからネフシェヒル(カッパドキア)へ向かってバスが出発する。今回は非常に長いバスの旅になりそうだ。アンカラからネフシェヒルまで実に約300キロ、東京〜名古屋間以上の距離があるのだ。

 ツアーのメンバーはみなぐったりしている。
 無理もない。無理もない・・・
 今日の午前中だけで飛行機に乗り、アタチュルク廟と考古学博物館を見学したんだからな。

 わたしは寝てしまおうと思った。
 しかしどういうわけか眠られない。
 これは疲れすぎだ。
 人間は疲れすぎると逆に眠られなくなることもあるのだ。

 オキアイさんも登場しない。
 森さんも無言だ。
 ただごとごととバスが揺れる音だけがいびつに響いてくる・・・



       ※            ※



 「ハッ!」わたしは気づいた。
 いつの間にか眠ってしまっていたのだ。
 ツアーのメンバーがどんどんバスを降りてゆく。
 わたしもなにがなんだかわからないままバスを降りた。

 すると目の前に景観が!
 素晴らしい。これがウワサに聞きし「塩の湖」トゥズ湖であるのか。
 湖の奥まで板が延びている。
 わたしはおそるおそる板の先端まで行ってみた。


  


 なんという心地良い風よ。
 まるで空気が塩で消毒されているようだ。
 こんな澄んだ空気を感じたことは非常に久しぶりな気がする。
 なにか忘れていた風景をなにかの拍子に思い出したような既視感がわたしをおそう。
 わたしはしゃがんで湖に手をやり、そして指先を舐めてみた。
 確かに塩の味がする。
 ふと見ると塩の結晶が水面に浮かんでいるのが見える。
 まるでわたしはまだ夢の中にいるようであった。



 あまりにも幻想的な雰囲気にわたしがわれを忘れていると森さんの声がした。

 「ハーィ!みなさん、そろそろ出発します!」

 塩の湖トゥズ湖、地味であるがわたしには忘れがたい風景として網膜に焼結された。いつの日かまた会おう、トゥズ湖よ。

 わたしは湖畔に背を向けて歩き出すとバスに乗り込んだ。

 

(黒猫館&黒猫館館長)