東西禁断の絵本

 

               

(↑『SKIN』↑                                        ↑『奇形児』↑

 

 ようやくというか、なんとかというか入手できた。
 と言っても漫画の本一冊である。
 イギリスから航空便で取り寄せたのだ。送料1000円もかかったぞ。

 その本の題名はピーター・ミリガン『SKIN』(1990年初版・ツンドラ社(イギリス))である。なぜにまたわざわざイギリスの漫画の本をば!?と不思議に思う人もいると思うので説明しよう。

 この本の存在を始めて知ったのは1993年の雑誌『スタジオ・ボイス』で「マンガのパースぺクティヴ」という特集をやっていた。その特集の本当の片隅で映画評論家の滝本誠が「最近読んで面白かった恐怖漫画」の一冊に本書を挙げていたのである。
 滝本誠といえばクロネンバーグやリンチの映画に造詣の深いカルト・恐怖映画の世界では一目置かれる存在である。その滝本が絶賛する漫画の本とはいかに!?と大いに興味を持ったのが本書との関係の始まりである。

 その後ある漫画方面では有名な大物コレクターが本書を青山ブックセンターで注文したが半年かかって結局届かなかったという話を本人から聞いた。
 なるほど、やはり日本人には無縁な漫画であるのだな、、、と妙に納得して一端わたしはこの本の存在を忘れた。


 しかしその後1998年頃、『完全自殺マニュアル』(太田出版)で急遽有名人と化した鶴見斉の著作第二弾『無気力製造工場』(太田出版)で再びこの本が約3ページにもわたって取り上げられたのだ。これは尋常ではない。
 イギリスの一冊の漫画の本がこれだけ日本で有名になるとはやはり事態は普通ではない。これは古書コレクターの名目にかけて必ずゲットしなければ!!と心に誓ったものである。

 さらにそれから10年が過ぎた2008年。
 わたしは偶然ネット上で、この『SKIN』をイギリスから直行で通販してくれるサイトを発見して、今回めでたくゲットしたというわけである。
 実に『SKIN』の存在を知ってから15年の歳月が流れていた。

 この『SKIN』の内容についてはこれから読むヒトのためにネタバレしないが、要するに「サリドマイド児」(胴体に手首が直接ついている奇形児の一首)が製薬会社の社長に復讐するという、なんとも陰惨極まる内容である。と言ってもわたしの中の根暗な部分は大喜び。恐怖漫画の愛好家ならイギリスから取り寄せて一読するに値する漫画であろう。



 とわたしはここで妙なことに気がついた。
 ひばり書房・立風書房など貸本系恐怖漫画の大御所である好美のぼるが「原ヒロミ」というPNで『奇形児』という漫画を描いている。
 この漫画もまた、奇しくも手首しかないサリドマイド児をモチーフにした恐怖漫画だ。
 わたしはこの本をヤフオクで一度だけ見たことがあるが、なんと10万円近くで落札された記憶がある。そういう妙な人気のためかこの系統の漫画にしてはめずらしく復刻版も出されている。

 さて東西の人気の超人気恐怖漫画本の内容がサリドマイド児に関するものだったということにわたしは浅からぬ因縁を抱いている。
 もしかしたらサリドマイド児の怨念がピーター・ミリガンと好美のぼるに取り憑いたのではないか?という恐い妄想がもたげてくる。

 わたしはいずれ『奇形児』の方の元版(復刻版でないオリジナル)も入手しようと思っているが、これはなかなか難しいであろう。
 
 さらにもし、二冊ともゲットすることが出来たなら?もしかしてサリドマイド児の霊がわたしの前に姿を現すのではないか?・・・と今からいらぬ妄想をしている始末である。



       ※      ※      ※



 さてコレクターたるもの、10年・20年の探求は当たり前と言われるが、わたしもようやくコレクターの端くれになってきたというべきか。最近は10年以上探求している本が増えてきた。

 現在なにかを探している諸君がいたら一年や二年の探求は当たり前と思って、あきらめずにお目当てのブツを探してほしい。

(左の画像が『SKIN』表紙、右が『奇形児』のトビラ。)

 

(黒猫館&黒猫館館長)