【西欧滞在日記 その54 完結篇】残り香

 

 AM7時。 
 朝のまぶしい光が窓から差し込んでくる。

 時は陽春・五月。ゴールデン・ウィーク。
 あのイタリア・フランス旅行から一ヶ月が経とうとしていた。

 

 わたしは机に座るとコーヒーを入れた。
 濃い目のブラックコーヒーをゴクリと飲む。
 苦い。・・・

 しかしこの苦さが良い。
 コーヒーの苦さが解ればオトナだと誰かが言ってたな。

 わたしはコーヒーをこぼさないように丁寧にイタリア・フランス旅行のアルバムを棚から引き出して、そおっと開いた。

 

 初めての外国の都市、ミラノで緊張して立っているわたしがいる。
 水没する都市・ヴェネチアのゴンドラに乗っているわたしがいる。
 春四月の明るい陽射しの中ではしゃいでいるわたしがいる。
 ローマのスペイン広場でスリに怯えているわたしがいる。

 そして・・・

 あのパリでの最後の晩餐、吉永さんとのツーショット写真。
 やけにオッサンっぽく写っているな・・・と苦笑しながらわたしはアルバムを閉じた。

 

 旅行後、わたしは吉永さんに手紙を書いた。
 イタリア・フランス旅行の思い出を一杯に詰め込んで。
 しかし返事はまだ来ていない。

 「まあ、仕様がないな。」・・・所詮は客と添乗員、親しくなってはいけないのだ。

 

 AM7時30分。

 毎週観ているテレビ朝日の「スーパーヒーロータイム」が始まる。
 轟轟戦隊ゴーオンジャーを観るためにわたしはTVをつけた。

 ゴーオン・キバ・プリキュアと三本見終わった頃、玄関付近でガタンと音がした。

 手紙だ。
 わたしはある予感を感じた。
 部屋から飛び出すと、わたしは二段飛びで階段を駆け下り、一階に向かってゆく。
 強引に手紙の束をわたしは引き出す。

 その中に。
 その中の一枚に・・・!

 

 

 

 【西欧滞在日記】完。2008年12月30日。全54話。スペシャルサンクス=ヤフーデイズの素晴らしき仲間たち。黒猫館&黒猫館館長。合掌。