【西欧滞在日記 その51】帰国(肆)

 

 

 只今、ロシア中央付近を航空中。
 だんだん寒くなってきたし、真っ青だった空が薄暗くなり始めた。
 しかしわたしの今回のイタリア・フランス旅行への総括はますます思考的激烈さを増していく。

 わたしは痛切に思った。

 結局、今までのわたしは「日本文化」というものを真剣に考えたことはなかったのであると。

 わたしは今まで、今回の海外旅行の最中ほど「自分が日本人である」と痛切に思い知らされたことはなかった。それはイタリア・フランス文化とのカルチャー・ギャップによって逆説的に齎(もた)された偶然の効果である。

 要するに「異質な文化との出会い」、このことによって「異国文化を識る」そしてその異国文化と自分の常識との「ズレ」を感得したのである。つまりその「ズレ」とは日本の常識は世界の常識ではないということだ。

 日本の常識は世界の常識ではない、このことは裏返せば日本文化の独自性の認識へと繋がる。かくしてわたしは今後は真剣に日本人として「日本文化」について考えてゆこうと思ったのである。

 真の国際人は自国文化をよく認識している者たちの中からしか育たないであろう。これは「自分を知らない者は他人を知り得ない」という心理学の場面でよく引き合いに出される例からも説明可能である。

 わたしは国籍上は日本人である。ならば「日本文化」についてもっと良く識らねばならぬ。そのための絶好の契機が、わたしの場合は今回のイタリア・フランス旅行であったのだ。
 思いもよらぬ海外旅行の効果を目の当たりにしてわたしは驚嘆して、そしてあの有名な話について考えた。

 その有名な話とは「月から地球を見て宗教の伝道者になった宇宙飛行士の話」であった。

 

(黒猫館&黒猫館館長)