【西欧滞在日記 その50】帰国(参)

 

 

 ベルリン上空で飛行機に揺られながらわたしは真っ青な上空を眺めていた。
 「わたしは秋田が嫌いだった。しかし今回の旅行でわたしは秋田が好きになった気がする。」

 わたしは30歳である病のために東京での仕事を止め、マンションを引き払うと秋田へ帰郷した。その後の悶々たる日々。東京への憧れは日に日に増大して、ついに東京のマンションを買う計画を始めたのも最近である。

 しかし今回のイタリア・フランス旅行でわたしの中のなにかが変わった。それは一体なんであろうか。

 要するにそれは「東京なんてパリに比べればたいしたことはないぢゃないか。」という悟りにも似た直観であった。

 東京へ移住すれば今度はパリが恋しくなる。
 パリに移住すれば今度はまたどこかが恋しくなるのであろう。

 要するにブッタの言った有り難いお言葉、
 「今居る場所に満足できない者が一体どこに行って満足することができるだろうか。」をわたしは今回のイタリア・フランス旅行で、その真髄まで感得していたのであった。

 ならば。
 ならばだ。

 とりあえず秋田での生活を頑張ってみようではないか。
 あくまで「地に足のついた」地道で地味ではあるが、コツコツと少しづつ階段を登ってゆくような生活を。

 わたしには秋田で友人がほとんどいない。さらに娯楽の少ない街。空洞化の進む秋田駅前。仕事を探そうにも日本一仕事が見つからないというお国柄。

 しかしそういう場所だってわたしの故郷であることには間違いない。
 ならば、とりあえず四十代の日々を秋田で過ごし、もしそれで満足できなかったら東京へ出よう。

 地道にだ。
 とにかく地道に頑張ってゆくのだ。

 

 只今モスクワ上空。
 わたしの総括は次の論点に移った。

 

 

(黒猫館&黒猫館館長)