【西欧滞在日記 その44】最後の晩餐(弐)

 

 

 パリの夜は明るい。
 夜、七時だというのに真っ青に晴れた空。
 春の瑞々しい光に照らされた金色のジャンヌ・ダルク像前のレストランの中に陣取ったツアー一行。

 まるで昼食のような明るい雰囲気の中でいよいよツアー最後の晩餐が始まる。

 わたしがふと右前方を観ると吉永さんがひとりで座っている。恐らく「添乗員席」という席に座っているのだろう。わたしは勇気を振り絞って叫んだ。

 「吉永さん!ここ空いてますよ!座りませんか!?」
 吉永さんが答える。

 「え!いいんですか!?」

 横を見ると宮崎老夫婦も吉永さんに向かって手招きしている。
 すると吉永さんは「失礼しまーす!」と挨拶して席を移動してきた。
 なるほどモノは試しとはこういうことなのだな。わたしは深くうなずいた。

 わたしは吉永さんと今回の旅行についてじっくり語りあいたい。
 あくまでじっくりと。ミラノ・ヴェネチア・フィレンツェ・ローマ・モンサンミッシェル・そしてパリの美しいおもいでを。

 やがて食前酒のワインが振舞われる。
 わたしは白ワインを注文した。
 吉永さんは赤ワイン。

 他のメンバーもほとんど赤ワインを注文した。
 やがて運ばれてきた白ワインを一杯やると、微妙にだが旅の疲れが癒されるような気がした。吉永さんや他のメンバーもワインの力で打ち解けたようだ。

   

 一瞬の沈黙。
 その次の瞬間、関西から来た若い女性ふたり組みが口火を切った。

 「本当に楽しい卒業旅行になりました。みなさん、ありがとうございます。
 わたしたちふたり、今年で大学卒業して看護師になります。」

 なんと関西から来た若い女性ふたり組みは女子大学生だったのだ。卒業旅行ともなれば感慨深いものもあるだろう。
 吉永さんがふたり組みに声をかけた。

 「看護師のお仕事、頑張ってくださいねッ!」
 やがて本日のメインデッシュであるエスカルゴが運ばれてくる。

 しかし最後の晩餐はまだまだ序の口であった。

 

 

(黒猫館&黒猫館館長)