【西欧滞在日記 その42】ルーブル美術館の午後(陸)

 

 

 さて現地ガイドの中村さんを先頭に行列を作って歩き回る妖しい日本人集団はようやく次の絵に到着した。

   

 裸婦である。裸婦。
 つくづくヨーロッパ人はハダカが好きだのだな〜と感心していると、すかさず中村さんの声が飛んだ。

 「ほら!君!こんな美女を見たら一夜を共にしたくなるだろう!」

 ん・・・とわたしはポカンとしていると、いらだったように中村さんが追撃する。

 「君だよ!君!」

 ようやく自分に言われていることにきづいたわたしはなんとも情けない声をあげた。 
 「は!はいぃぃぃ・・・」
 「そうだよ。それが普通なんだ。」というと中村さんの講釈が始まった。

 なんでもこの絵に描かれているオダリスクの身長は普通ではないという。
 解剖学的に推測すれば背骨が3本多いということになるらしい。
 「ははー、このオダリスクは人間ではないのだな・・・男の精を吸い取ってしまう妖魅の類に違いない!!」とわたしが決め付けているうちに中村さんが歩き出した。

 早い!もっとゆっくり見学させてよ!と心の中で叫んでも中村さんの歩調は止まらない。
 ふと歩いている時に非常に気になる絵があった。

  

 

 この絵はフランドランの「海辺の少年」という絵なのであるが、この完璧な男体を観よ!!わたしとしてはミケランジェロのダビデ像よりこちらの「海辺の少年」に計算されつくした完璧な男性美をみる。

 中村さんの一行は遙か遠くへ行っている。
 ヤバイ!と思ったわたしは「海辺の少年」に別れを告げ、一行の末尾についた。

 そこにあった絵はジュリコーの「メデューズ号のいかだ」であった。この絵は1816年にメデューズ号の難破という実在の事件を元にしている。

  

 この絵のポイントは先頭で立っている人間と後ろにいる横たわった人間が見事に対比されていることだそうである。
 そう言われてみれば先頭の人間は力強く立ち、向こう側に手を振ってなんとか生存しようと試みている。

 それに対して後ろの人間は絶望しきった表情で崩れ落ちたように横たわっている。

 なるほど、これはまさに現実の人間社会の縮図であるのだな。わたしもできたら先頭の人間のように生きたいものだ。

 と、ここで「ビリビリビリビリ〜!!」とブザーが鳴った。いきなり飛び出してくる警備員たち。観客たちはどんどん横にある勝手口から外に追いやられてゆく。

 さすがフランス。日本ならこんなに観客をぞんざいにあつかわないだろうと思うぐらい乱暴に画廊から追い出されてしまった。前にはちゃっかり売店が見える。この売店でおみやげを買っていけということなのだろう。

 なんというちゃっかりとしたルーブル美術館館長よ!

 ツアー一行はここで中村さんと別れを告げ、売店に入った。ここからは自由行動。30分後にピラミッドの前で集合とのこと。わたしは売店でなぜかあった黒猫の置き物を買うとトイレを済ませるとバスに向かった。

 

 

(黒猫館&黒猫館館長)