【西欧滞在日記 その39】ルーブル美術館の午後(参)

 

 

 大いなるミロのヴィーナスの艶姿に魅了されまくって、その酩酊感にくらくらになったツアー一行。
 しかしルーブル美術館出だしの彫刻三連発の最後は一番強烈であった。

 

 その名も「瀕死の奴隷」!
 フィレンツェでお世話になったミケランジェロさんとのご再会である。

  

 

 それにしても、嗚呼!こんなに艶かしいものがルーブル美術館に置いてあってイイの!?とわたしは唖然とした。
 「奴隷」という言葉を聞くだけでなぜか「ウフウフ・・・」とにやけの来てしまうわたしであるが・・・イカン!そんな好色な視線で芸術作品を観ては。これは芸術なのだ。あくまで芸術。わたしは自分の心をストイックに引き締めた。

 それにしてもミケランジェロさんってば。全く。とわたしは呆れ果てた。ミケランジェロの信条は「男性は艶かしく」「女性は逞しく」であったらしい。その証拠に観よ!この奴隷の恍惚の表情を。
 あまやかな死にとろけるような青年奴隷の表情!

 これこそジョルジュ・バタイユの説いた「死を前にしての歓喜の実践」であるのだな。ふむふむ。と哲学的瞑想?にふけっていたら現地ガイドの中村さんの講釈が始まった。

 なんでもこの「瀕死の奴隷」のモチーフは青年奴隷の内側から迸る生命力(エロス)とそんな青年奴隷を外側から縛める力(タナトス)のせめぎあいであるそうである。

 わたしはミロのヴィーナスの時と同様に深くうなずいた。
 「ウムム・・・深い。」

 さてミケランジェロさんとはしばしのお別れ。
 いよいよツアー一行は近世絵画の部屋に足を踏み入れた。

 

 (黒猫館&黒猫館館長)