【西欧滞在日記 その38】ルーブル美術館の午後(弐)

    

 

 さて次の部屋に入る前にサモトラケのニケがなぜこんなに有名なのかもう一度反芻してみよう。 

   

 サモトラケのニケには頭と両腕がない。
 実はこれが非常に重要なポイントとわたしはにらんでいる。
 サモトラケのニケに頭と両腕がないことで、鑑賞者はニケに対して「無限の解釈」を与えてしまうのではなかろうか。それが古代ギリシアの海を駆けるサモトラケのニケに対する無限の憧憬へと繋がってゆくのだろう。

 サモトラケのニケを観ているだけでわたしには、古代ギリシア沿岸の地中海のざわめきまで聴こえてくるようだ。

 ニケに地中海の浪漫をかき立てられたツアー一行は次の部屋に入った。一行が「おおッ!」とざわめく。無理もない。おおよそ人類史において彫刻の名のつくもので最も有名であると思われる「ミロのヴィーナス」がそこに鎮座していたからだ。

  

 

 現地ガイドの中村さんが渋い声で叫ぶ。
 「みなさん、真正面の写真は教科書に載ってますから、なるべく横や後ろから写真を撮ってください!」

 わたしはミロのヴィーナスの後ろに回ってみて愕然とした。
 なんと「腰パン」!!

 ミロのヴィーナスは当世の日本の流行を先取りした彫刻だったのだ。これでは有名になるのも無理はない・・・などとわたしはウンウンとうなずいていた。

 ガイドの中村さんの話によるとこのヴィーナスの腰布は「今まさに」ストンと落ちる直前、つまり、静と動のギリギリのせめぎあいを表現しているのだそうである。

 なるほど「深い。」わたしは深く納得した。

 さてサモトラケのニケ、ミロのヴィーナスと二大超有名彫刻を観たわたしの前にさらなる彫刻が立ち塞がった!

 

(黒猫館&黒猫館館長)