【西欧紀行 その34】終着駅から〜パリ〜(壱)

 

 

 四月のパリはまだ肌寒い。


  

 

 乾燥した突風を全身に浴びながらわたしはエッフェル塔中央広場に立っていた。

 4月15日。ツアー最終日。午前中9時に凱旋門でツアー一端午前中はパリ市内自由行動。お昼にもう一度凱旋門に集合して、午後からルーブル美術館に向かう。

 ぼんやりとそびえたつエッフェル塔を観ながらわたしは回想していた。すなわちミラノの巨大なドゥオモを。ヴェネチアの頽廃と憂愁。明るく光かがやくフィレンツェの町並。そして無防備都市ローマでのピンチを。

 楽しいことも嫌なこともすべて本日で終わりだ。
 せっかくの最終日だというのに、無情に立ち込めた曇天がわたしの心をさらに暗く包んでいた。
 わたしはまた少しナミダぐんだ。

 「日本に帰りたくない」・・・

 できることならこのまま永遠に放浪者としてヨーロッパ全土を漂っていたい。できることなら。もっともっと、わたしには観たい場所、訪れたい国がある。

 しかしそれはかなわぬ夢であった。
 また単調な日本での生活が始まる。
 この旅でわたしはどこか変わったのであろうか。それともなにも変わらなかったのか。・・・?

 そんな思索にくれるわたしを尻目にしてパリジャン・パリジェンヌたちは足早にわたしの両端を通りすぎてゆく。

 わたしは大きな溜め息をつくとシャンゼリーゼ通りに向かって、家族へのお土産を買いに歩きだした。

 

  

 

(黒猫館&黒猫館館長)