【西欧滞在日記 その34】西洋の奇跡(伍)

 

 

 「ラ・メルヴェイユ(驚異)」の第一層「廻廊」を観てしまったあまりの驚異に言葉をなくしたツアー一行。
 第二層は貴族の間、別名「食堂」。

 モン・サン・ミッシェルに招かれた貴族たちがここに一同に会して食事をしたのであるという。と言っても現在ではもうテーブルも残っていない。ガランとした大広間の横になぜか昔のトイレがあった。

 豪華な食事をしたあとは横にあるトイレに直行!なるほど合理的だ。

   

 さらに螺旋階段を下りると第一層平民の間、別名「作業室」。ここで平民が雑用をさせられたそうである。平民というだけで最下層で酷使されるその冷厳な身分制度!

 

 そこからさらにぐるぐる螺旋怪談を降りるとパアッ!と視界が開けた。
 素晴らしい眺望!
 視界全域に広がる大西洋。


   

 
 名作文藝映画「ピアノ・レッスン」の冒頭に登場する海岸シーンを連想させるしっとりと落ち着いた海岸。この向こうにはアメリカがある。まるで無限の夢をかきたてられるようだ。

 わたしはもう一度生きて大西洋を観ることができるだろうか・・・?

 そんなことを考えながらセンチになっていると後ろで添乗員の吉永さんが叫んだ。

 「ハーィ!みなさん、モン・サン・ミッシェルの見学はこれで終わりです!これからバスで3時間かかってパリへ戻ります。本日の夕食はホテルです!急いでバスに戻ってください!!」

 モン・サン・ミッシェル見学も終了。
 ローマから始まった今日一日の強行軍にわたしの足は棒になっていた。

 しかし足のイタミより、わたしを大きく揺さぶるものがあった。

 それは旅の終わりの憂愁(メランコリー)。

 わたしは少しだけナミダぐんだ。

 明日はいよいよ今回のツアーの最終観光地・パリ。
 わたしは大西洋から吹いてくる乾燥した風に髪を押さえながらバスへ歩き出した。

 いよいよ旅はクライマックスを迎えるのだ。
 パリでわたしは今回の旅に自分なりの決着をつけたい。後に未練を残すような中途半端な旅の終わりには絶対にさせない。
 それはわたしなりの決意であった。
 ミラノから始まった「イタリア・フランス10日間周遊の旅」の完結符をパリという地にしっかりと刻印するのだ。

 マイバス社のマイクロバスのエンジンがかかる。

  

 わたしはナミダぐんだ眼を擦って、微かに微笑むと聖地モン・サン・ミッシェルに別れを告げた。

 

 

(黒猫館&黒猫館館長)