【西欧紀行 その33】西洋の奇跡(肆)

  

 

 修道院付属教会から渡り廊下を渡って「ラ・メルヴェイユ(驚異)」と呼ばれる三層構造の建築物に足を踏み入れたツアー一行。
 なぜ「三層」であるのか、といえば上から「聖職者用」「貴族用」「平民用」という厳重な階級序列に従って建築されているそうである。

 優雅なモン・サン・ミッシェルにいまだ残る忌まわしい封建時代の記憶!

 さて、一体なにが「驚異」なのか。

 今から胸が高鳴ってゆく・・・

 長い長い渡り廊下を越えたツアー一行の前にいきなりバアッ!と視野が開けた。中里カップルも宮崎老夫婦も関西から来た若い女性ふたり組みも眼を見開いた。

 「驚異の廻廊」!出現。

  

 

 といってもガイドさんに指摘されるまで一体この廻廊のなにが「驚異」であるのか誰もわからなかったのであるが。
 まずこの廻廊(廻廊とはグルリと周って一周できる廊下のこと)は一定間隔で柱が立てられているが、この間隔は柱の間に修道僧が座って読書するのにちょうど良い感覚で作られているとのこと。

 さらに柱の列は二列になっているが、これは廻廊のどこから見ても柱の間隔が違うように見えることを配慮してのことだという。つまり「世界は観る場所によって姿を変える」ことを暗示しているのだという。

 なるほど、10世紀の中世の真ん中ごろにこんなことを考えている人間がいたとは確かに驚異だ。

 さらにこの廻廊は「舟をさかさまにしたカタチ」をしている。つまり天井が丸いのだ。

 ガイドさんがやたら熱心にこの廻廊の凄さを熱弁している。
 しかしわたしたちツアー一行はなにかポカンとしていた。
 あまりに凄い西洋文明の奇跡を目の当たりにして、返す言葉が無かったのかもしれない。
 日本人には凄すぎてよくわからないもの、そういうものが西洋にはあるのだ。

 さよう。さよう。ソレでよい。それで良いではないか。明晰に理解できなくても「なにがなんだか良くわからないがとにかく凄い」そういうものごとの理解の仕方もあるのだ・・・

 「驚異の廻廊」を後にしたツアー一行はぞろぞろと下の回「貴族の間」に降りてゆく・・・

 

(黒猫館&黒猫館館長)