【西欧滞在日記 その31】西洋の奇跡(弐)

 

 

 ツアー一行の前にその威容をあらわしたモン・サン・ミッシェル。
 中里カップルも宮崎老夫婦も関西から来た若い女性ふたり組みも完全に圧倒されたように口をポカンと開けている。

 

   

 

 天空にそそり立つその姿はまさしく戦闘要塞。
 事実、モン・サン・ミッシェルは英仏百年戦争の時はフランス軍要塞として使用された。
 しかし威容を誇るだけがモン・サン・ミッシェルの特長ではない。
 大西洋をバックにして、ロマネスク様式とゴシック様式が複雑に入り組んだその独特の建築様式は神秘的でさえある。

 もともとは修道院として建造されたという事実もうなずける。

 キリスト教を信じないわたしであるが、さすがにモン・サン・ミッシェルを眼の前にしては敬虔な気分にならざるをえない。
 
 モン・サン・ミッシェルを目蓋に映しながら、わたしは今はなきゴスロリ・バンド「マリス・ミゼル」の名曲「Bois de merverilles」をぼんやりと脳内演奏していた。

 

「♪静かなる妖精たちよ


 全ての怒りを鎮め
 静かなる妖精達よ
 罪人を許しておくれ


 この歌声はそよ風と共に
 森と大地を駆け抜けて

 祈りを叶える


 静かなる妖精たちよ
 私の犯した罪を
 許してもらえるまで
 私は歌い続ける


 この声が無くなるまで♪」
 

 

 

        アルバム「merveilles」より引用。

 

 

      ※        ※       ※

 

 バスから降りたツアー一行は城門「王の門」から城内へ入場した。
 そしてグランド・リュ(大参堂)を通ってレストランに入る。

 

   

 

 ようやく本日の昼食にありつけたのだ。パンとワインがツアー一行の前にうやうやしく差し出される。
 ローマで朝食を食べてこなかったわたしはガツガツ食べてしまいたい衝動に駆られた。しかしちょっと待て。
 わたしの心の奥底で天使が囁いた。

 「パンはイエスの肉でありき・・・
 ワインはイエスの血でありき・・・」

 わたしは神の御子、イエス・キリストに感謝しながらパンと肉をほお張った。

 モン・サン・ミッシェルの恐るべき磁力で無神論者であるわたしも今日一日だけの敬虔なクリスチャンに変貌していたのだ。

 

   

 

 

(黒猫館&黒猫館館長)