【西欧紀行 その30】西洋の奇跡(壱)

 

 「岩山の上に修道院を立てよ」。
 西暦708年聖ミカエルのお告げが大司教の耳元で囁いた。

 そうして本当に岩山の上の修道院を立てる大工事が始まった。時は中世の真っ只中。場所は大西洋沿岸ノルマンディー地方。しかし修道院はこの大いなる建築物の発端に過ぎなかった。

      

 ※        ※       ※

 

 パリ郊外、シャルル・ド・ゴール空港からフランスに入国したツアー一行。ツアー一行は「マイバス社」のリムジンバスに乗り込み、本日の目的地、モン・サン・ミッシェルに向かう。発車時刻AM9時。
 しかしわたしはマイバス社のバスの中でいびきをかいていた。

 

  

 

 ハッ!とわたしは目が覚めた。時間はAM11時。まだ眠い。昨日のローマのホテルでの夜半覚醒がまだたたっている。わたしはミネラルウォーターをガブリと一口飲みほすと、バスの外に目を向けた。

 「おおっ!」わたしは驚嘆した。
 羊がいる。それも沢山。さらに羊を追う牧童が走り回っている。

   

          

 「まるで昔、フジテレビで日曜日夜7時30分から放送されていた「カルピス名作劇場」のようだ・・・」そんなことをぼんやり思いながらわたしはバスの内部を見回した。
 
 中里カップルも宮崎老夫婦も関西から来た若い女性ふたり組みも、みなぐてっとした姿勢でいびきをかいている。わたしは彼らをニヤニヤしながら観察しながら「さすがに成田を出てから約一週間。ツカレが出てきたのであろう・・・無理もない。無理もなーい。・・・」とひとりでうなずいていた。

 それにしても初めてみるフランスの田舎の素晴らしさよ!
 イタリアの田舎とはまた一味違う。
 イタリアが「こってり」であるとしたら、フランスは「あっさり」味。日本の田舎に近い雰囲気もあるが、やはり日本ともどこか違う。

 そんな考えごとをしていたらいきなり視界がバアッ!と開けた。
 大西洋だ!
 大西洋の落ち着いた雰囲気はヒトを癒す力があると思う。太平洋のノドカさとも日本海の厳しさとも違うどこかオトナの雰囲気漂う海。それが大西洋だ。

 やがて大西洋沿岸に遠く見えてきた城砦のような建築物がある。

   

 それこそが今回のフランス観光の目玉、「西洋の奇跡」モン・サン・ミッシェルだったのである。

 

 

 (黒猫館&黒猫館館長)