【西欧滞在日記 その21】無防備都市(壱)

 

 

 1943年。
 イタリアはナチスに占領される。
 イタリアの首都・ローマにはゲシュタポたちが侵入。
 さらに敵はナチスだけではない。
 ムッソリーニを始めとするファシストたちがイタリア各地に点在し、首都ローマは今まさに緊張の沸点を迎えようとしていた。

 

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 これがロベルト・ロッセーニの映画「無防備都市」の導入部分である。
 ロッセーニの描くローマには名所旧跡は登場しない。ローマはあくまでゲシュタポに制圧された危険地帯として描かれる。

 

 そして時代は2008年4月。
 ゲシュタポやファシストたちは滅びたがあくまで危険地帯であることに変わりのない無防備都市・ローマにこのわたしが乗り込むこととなる。しかしこの時「無防備」なのはローマではなく、そこを訪れるわたしのほうであった。

 添乗員の吉永さんがハキハキした声で挨拶する。

  「ハーイ!みなさん、おはようございます!!本日は午前中はローマを観光、午後からは自由行動になります!ローマは北イタリア(ミラノ・ヴェネチア)とは全く違います!!危険なのはスリだけではありません!「押し売り」「子供の強盗」「ニセ警察」も出現しています。「ニセ警察」とは文字通りニセの警察で彼らに捕まったら身ぐるみ剥がされてしまいます!!みなさん、自由行動の時はなるべく固まって歩いてください!!以上!」

 「ふふん・・・」

 とわたしは寝ぼけた眼をこすりながら吉永さんの警告を聞き流した。ミラノでもヴェネチアでも大丈夫だったんだ。いまさらローマぐらい・・・
 この時のわたしは甘かった。本当に甘かったのだ!無防備すぎるぐらいに!

 

 

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 さてツアーの最初は「車窓見学」が主。コロッセオ、カラカラ浴場などをバスの中から見学する。コロッセオはなんともノドカな雰囲気である。古代ローマ兵士のコスプレをしたオジサンがなにやらはしゃいでいる。

 わたしとしてはコロッセオの内部に入りたかったのであるが、待ち時間二時間以上ということでツアーから外された。残念。

 その次はカトリックの総本山と言われる、サンピエトロ寺院。
 この寺院は厳格なことで知られ、タンクトップ、ミニスカート、ショートパンツでは入場が不可であるそうである。両肩丸出しのノースリーブを着こんでいた関西から来た若い女性二人組みがいそいそと上に長袖をはおっている。そんな風景にニヤニヤしながらわたしは「世界一の大聖堂」サンピエトロ寺院にバスから降り立った。

 

 

 

 

 

(黒猫館&黒猫館館長)