【西欧紀行 その18】春四月 花の都を駆け巡る(上)

 

 ウフィツィ美術館から出たわたし。
 良い絵にはヒトを励ます力がある。
 ウフィツィ美術館に入る時に感じた腹具合の悪さもどこかへ吹っ飛んでいた。

 

 さて「自由行動」の時間である。どこへ行こうか?
 とウフィツィ美術館正面のシニューニア広場の真ん中に立つわたし。
 周囲にはミケランジェロの筋肉隆々の男たちの裸像が群立している。

  

 

 わたしは男性裸像が嫌いではない。むしろ好きである。しかしわたしは男性との性交渉を好む同性愛者(ホモ・セクシャル)ではない。
 わたしは幾何学的に計算された均衡の取れた男性裸像をあくまで観賞物として愛好するのみだ。その点が正真正銘のホモ・セクシャルであったミケランジェロとわたしとの違いである。

  シニョーニア広場の真ん中で関西から来た若い女性二人組みがミケランジェロの彫像の真似をしてポーズを取っている。
 周りのイタリア人たちがみな彼女たちを観て苦笑している。わたしもやれやれと思いながらシニョーニア広場を後にした。

  ウフィツィ美術館の横はメディチ家の本部であったベッキオ宮殿、さらにその横が世界で三番目に大きいと言われる大聖堂・サンタ・マリア・デル・フィオーレ(花の聖母マリアの大聖堂)がある。

   

  この大聖堂はフィレンツェという街のシムボルであり、そして中心である。眼の前にそびえたつ大聖堂は華麗にして豪奢、それでいて威圧感がない。

 わたしはしばし大聖堂の前のベンチに腰掛けて休息を取った。隣にはイタリア人・黒人・黄色人種・ジプシーなど人種のるつぼが腰掛けている。

 みなリラックスした表情である。フィレンツェに来れば誰もが癒されてしまうということであろうか。さすがはヨーロッパ通のヒトがフィレンツェをヨーロッパ最高の都市に持ち上げたくなる気分がわかってきた。スリらしき怪しい人物の姿も見えない。

 

  わたしは今回の西欧旅行でようやく「あぁ・・・旅行に来たんだなァ・・・」という安堵感を味わっていた。ミラノやヴェネチアで味わった緊張感と疲れがトスカーナ地方の澄んだ空気の中で、みるみる溶かされほぐされてゆく。

  ふとその時、向こうから添乗員の吉永さんが歩いてきた!
 フィレンツェの晴天の下、わたしの心臓は早鐘を打つように激しく鳴った。

 

 

(黒猫館&黒猫館館長)