【西欧滞在日記 その16】ウフィツィ美術館漫遊記(中)

 

 

 「円盤に乗った裸女がっ!!」

 わたしは大いに仰天した。それもそのはずダ・ヴィンチの部屋の次のボッティチェッリ(1445〜1510)の部屋に入った瞬間、教科書で何度も何度も観せられた「あの絵」が視界に飛び込んできたのだから。

 その絵とはまさに世界的に有名な「ヴィーナスの誕生」であった。


  

 貝殻の上に裸女が乗っている。この貝殻はUFOであろうか。右のオバサン風女性のほうが恥ずかしがってヴィーナスに服を着せようとしているのがまた面白い。
 中世絵画の抹香臭さとは正反対のルネッサンス絵画のおおらかさ・大胆さ・奇想天外さをまざまざとみせつけられる画風である。

 こういったキリスト教的イメージから外れる絵を描くことは当時としては大変な冒険であったという。改めてボッティチェリの冒険精神に感服させられること、しきりである。

 

 その次の絵は同じくボッティチェリの「春」。
 「森の中で秘密結社の集会がっ!!」などとわたしは大げさに驚いてみせた。

 

    

  この絵は「ヴィーナスの誕生」と対になる絵で「ヴィーナスの誕生」が「天上のヴィーナス」であるとすれば、こちらのヴィーナスは「地上のヴィーナス」と呼ばれるという。

  それにしてもなんという華やかな絵であろうか。ヴィーナスを真ん中に配して、その左側では踊り舞う三美神が、右側では花神フローラが堂々たる風情で佇んでいる。まさに観ているだけでわたしの心にも春が来たようだ。

  中里カップルも宮崎老夫婦も関西から来た若い女性二人組もこの「ヴィーナスの誕生」と「春」の圧倒的ダイナミズムに打ちのめされたのか、放心したように絵に見入っている。こういう「感動している人たち」を観察するのも美術館巡りの愉しみだ。ウフウフ。

 

 その次のボッティチェッリの絵はダ・ヴィンチの部屋にもあった「受胎告知」。これは晩年にキリスト教的精神に改心?したボッティチェッリの作である。読者よ。ぜひダ・ヴィンチの「受胎告知」と比べていただきたい。

   

 こちらのマリアさまはガブリエルの告知がよほどショックだったと見えてもう倒れそうなほど身体がひんまがっている。こちらのほうのマリアさまのほうがわたしとしては親しみが持てる。人間たるもの、普通はこうであろう。

  さてボッティチェリのめくるめく名画の世界に圧倒されたわたしたちツアー一行はいよいよ最後の部屋に入った。

 

 

 (黒猫館&黒猫館館長)