【西欧滞在日記 その8】都市の女王

 

 

 「おお!!ミラノよ!!
 わたしはやってきた!お前の許(もと)へ!」

 

 と自分に気合をかけて、ミラノ市内へと突入するわたし!
 
 凄い!
 車・バイクがビュンビュン走っている!
 男も女もイカシタ・ファッションしている!
 ブランド店が一杯!人間も一杯!

 イタリアの都市ということで、もっとこう「ひなびた」雰囲気を予想していたわたしは良い意味で期待を裏切られた。日本の都市で言えば横浜・元町がミラノに近いであろうか。すばらしくファッショナブルで活気に満ち溢れた街である。

 イタリアでは政治の中心はローマ、経済の中心はミラノ、と言われるくらいミラノはイタリアを代表する街である。また「水の都」ヴェネチア、「花の都」フィレンツェ、「永遠の都」ローマ、「ファッションの都」ミラノと「イタリア四大都市」に分類される場合もある。

 かっていにしえの詩人がミラノを「都市の女王」と呼んだとか。

 それほどまでに満ち溢れる華やかな活気!

 ツアー一行はバスから降りるとぞろぞろとミラノ中心部に位置する「ドゥオモ」に向かってゆく。ドゥオモと言ってもNHKの変なマスコットではない。大聖堂のことだ。ここミラノのドゥオモもローマのサンピエトロ寺院に継ぐ世界二番目の大きさであるという。またアラン・ドロンが主演したルキノ・ヴィスコンティの映画「若者のすべて」ではアラン・ドロンがこのミラノのドゥオモに登るシーンがある。

 

   

 添乗員の吉永さんがハキハキした声でツアー一行に気合を入れる。

 「みなさん!ドゥオモ内部は暗いです!スリには十分に気をつけてください!!」

 わたしは「スリ」という言葉を聞いてゾクッ!と身震いしたが、それでも勇気を出してドゥオモ内部に入ってゆく。確かに暗い。しかも不気味なほどに内部は広い。まるでSF映画に出てくる地下の大空洞のようだ。

 「これが大いなるキリスト教文明の成果か!」
 わたしは西欧文明に敬意を払いつつ、ドゥオモ内部をゆっくりと見学してゆく。椅子の下には足置きのような台がある。これはなんだろう?と不思議に思ったら、その台はなんと「ひざまずくための」台であった。さらに教壇の遥か上でUFOのように赤く光っている不思議な物体がある。吉永さんの解説によるとこれはキリストの「聖遺物」が入っている箱だそうである。キリスト教の圧倒的な世界観にわたしは打ちのめされた。

 ようやく一行はドゥオモから出る。カバンは無事だ。「ふあぁ・・・良かった・・・」と胸を撫で下ろすヒマもなく一行は 次の目的地「ヴィットリオ・エマヌエーレ・ガッレリア」に向かう。

 なんという強行軍!半日で「ドゥオモ」「ガレリア」「スフォルチェスコ城」を周るのだ。そして午後からはベローナ(ヴェネチア近郊の田舎町)に向かう。

 ガレリアは瀟洒なアーケード街である。ファッション店・宝石店がのきを連ねて並ぶ。しかしブランドモノのファッションを買うだけのユーロを持ってこなかったわたしは指をくわえて見ているだけであった。

 ガレリアの次はスフォルチェスコ城。ここはそれほど圧倒される雰囲気でもなく、なにやらのほほんとしたのどかな雰囲気。イタリア人のお婆ちゃんがチワワを連れて散歩している。わたしはホッと胸を撫で下ろして城の公園のベンチで休憩した。なにやらごてごてとした奇妙な彫刻群がある。しかしこれらの彫刻群は単にデカイだけという印象でそれほど感動しなかった。

  

 公園の売店で家族へのおみやげであるキーホルダーを買う。3ユーロ。まずまずの値段にわたしは安心した。


 荘厳なスフォルチェスコ城を見た後はようやく昼食。なんでも「ミラノ風カツレツ」であるそうだ。しかし日本のカツレツとそれほど変わらない味に少々落胆。赤ワインも出た。昼間から酒は飲みたくないな〜と思いつつ、イタリアでは昼間のワインは常識だそうである。妙に納得。

 昼食後、一行はバスへ戻る。

 マッシオさんがなぜかニヤニヤ笑っている。

 「さらば!ミラノよ!!」と感傷に耽る間もなくリムジンバスが走り出す。ベローナに向かって。

 しかしベローナである衝撃的な出来事が待ち受けていることを、この時のわたしは知る余地もなかった。

「ベローナへ!」

 マッシオさんのバスが速度を増してイタリアの高速道路を突っ走ってゆく。強行軍はまだまだ続いてゆく。

 

 

(黒猫館&黒猫館館長)