【西欧滞在日記 その5】ミラノの夜




 パリ発。
 ミラノ行き。
 PM8時出発。

 ぐったりと疲れきっており、その上眠りすぎで頭がボンヤリするわたしは飛行機の窓から遠ざかってゆくパリの灯を見詰めていた・・・

 

 と次の瞬間、フランス語でアナウンスが入った。
 パッ!と覚醒すると飛行機の外は真っ暗。時間はPM10時。いつの間にか眠ってしまいその間にミラノに到着したらしいのだ。

 わたしはまるで夢の中の風景であるようによろよろと座席から立つとついに目的地・ミラノ空港に立った。
 実に成田から16時間が経過していた。

   

 ツアー一行がミラノ空港から出る。
 そこにまっているのは日本では見ないような巨大なリムジンバス。

 わたしがバスに乗り込むと、陽気な陽気な運転手さん「マッシオさん」が元気な声で出迎える。

 マッシオさん「チャーーーーーーーオ!」(どうもこんばんは。)

 わたしは苦笑しながら小さな声で「チャオ・・・」と答えた。(この「チャオ」という言葉はイタリア語で「おはようございます・こんにちは・こんばんは」をすべて兼ね備えた日本語の「どうも!」のような便利な言葉なんだそうである。)
 マッシオさんの運転するリムジンバスがミラノ郊外の田舎を走る・走る・・・イタリアと言えばゾンビ映画を連想してしまうわたしはボンヤリと道の両脇の草叢からゾンビが飛び出してくる様子をなんとなく妄想していた。

 

 しばらくするとバスが止まった。
 ついに今夜のねぐらに到着したのだ!ミラノ郊外ラマダホテル。まるで日本の民宿を洋風にしたようなひなびた雰囲気が漂っている。なにかイタリアというよりメキシコにいるような不思議な気分に襲われながら一行はホテルに入る。
 吉永さんが元気な声をあげる。

 「ハーィ!!明日はAM7時起床です!解散!」
 なんと夕食も夜食もなにもないのだ。わたしは唖然とした。吉永さんに聞いてみると「機内食で十分」というそっけない返事が返ってきた。
 わたしは飢餓感に悶えながら自室に入った。そしてシャワーを10分で浴びると、まさに「バタン・キュー」という擬音がピッタリなほどにベットに倒れこんだ。

 

ようやく長い長い一日が終わったのだ。

 わたしは両手を握り締め、歯軋りしながら何度も自分に言い聞かせた。「これはもう観光旅行などという生優しいものではない!サヴァイバルだ!生き延びろ!自分よ!!」

 今まで経験したどの国内旅行よりも過酷な「海外旅行」のあまりの凄まじさにわたしは完膚なきまでに打ちのめされていたのだ。

 そうやって興奮しているのもつかの間、いつの間にかわたしは浅い眠りに落ちていた。時間はAM一時。

 その夜・・・?

 

 

(黒猫館&黒猫館館長)