『ひとりの女に』

 

黒田三郎著。第一詩集。初版1954年6月30日。500部限定記番。昭森社発行。ハードカバー角背上製。カバ完本。装丁北園克衛

 詩人・黒田三郎は1919年広島県生。戦前は北園克衛が主宰するグループ「VOU」に参加。戦後、鮎川信夫らと共に「荒地」創刊に参加。
 黒田三郎は観念詩的色彩の強い「荒地」グループにあって、一貫して平明に庶民の生活実感を謳いあげた詩人である。黒田三郎は社会の現実に傷つく自己の無力さを執拗に描く。しかし、黒田三郎は自分が無力であるからこそ、その無力な自分を乗り越えてゆこうとする努力、そしてその努力を最終的には社会変革の方向に導いてゆこうとする極めて愚直なまでに純粋な「人間の声」を発している。そのような一庶民としての愚直な「人間の生の声」それが多くの読者の共感を得るのだ。

 本詩集『ひとりの女に』はその題名からも明らかなように、ひとりの愛する女性(のちの黒田三郎夫人)にあてた恋愛詩集である。昭和20年代の荒廃した時代においてこのような優れた恋愛詩集が世に出たことは奇跡に近いことであろう。そう言い切れるほど本書の集中十一篇の詩はあまりに純粋な愛の詩であり多くの読者の感動を呼ぶ。
 戦後出版された恋愛詩集のなかで最もすぐれた一冊であると私は言い切りたい。黒田三郎は本書において第五回H氏賞を受けた。
 さて本書は最近古書価が急騰しているので、欲しいひとは早めに買ったほうがよい。非常に出にくいが運がよければ遭遇が全く不可能というわけではない。

 

(黒猫館&黒猫館館長)