『はくちょう』

 

 

 川崎洋著。書肆ユリイカ刊。初版1955年9月15日。定価250円。カバ完本。角背上製。

 

  詩人・川崎洋は、1930年東京生。西南学院中退。最初は九州で丸山豊の『母音』に参加。上京後は茨木のり子と共に『櫂』を創刊する。放送詩劇で芸術祭文部大臣賞・芸術祭奨励賞を受賞。詩集に『はくちょう』『木の考え方』などがある。
 川崎洋の詩の特長は児童詩のような明快さとまるで童話のようなファンタジックな世界観にある。ひらがなの多用や動物をモチーフに多く使うことも大きな特徴としてあげられる。川崎洋の詩には「荒地」や「列島」の詩人にみられるような政治的イデオロギーを声高に叫ぶような姿勢は全く見られない。そういった政治的イデオロギーとは最も遠い地点で、子どものようなナイーブな問いを自らの詩に託して発し続けた戦後ではたぐいまれな詩人である。

 
 さて本書、『はくちょう』には、川崎洋の代表作とも言うべきあまりにも有名な詩、「はくちょう」が巻頭に収められている他、連作詩「オトギバナシ」などを収録する。この一冊を読めば川崎洋の詩の特長はほとんど理解できるだろう。
 伊達得夫による童画風のカバー絵やカバー天辺に黒地に白抜で「はくちょう」を題名を書くなど書肆ユリイカならではの瀟洒な装釘センスが光る。
 本書は昔からなかなか出ない本であるらしいが、もし出たらそれほど高くなく入手できるらしい。書肆ユリイカ本愛好家の諸君にも本書は強くお勧めしたい。
 なお川崎洋の第二詩集は『木の考え方』、この詩人のファンならこちらもぜひ持ちたい詩集である。

 

 

(黒猫館&黒猫館館長)